食品ECとは?市場規模や課題、成功事例を解説
ネットショップで地方のお取り寄せグルメや銘菓、生鮮食品を購入した経験のある人は多いのではないでしょうか。それだけネットショップのなかでもメジャーな食品ECですが、運営にはさまざまな課題があり、簡単に参入できる分野ではありません。
そこで、今回は食品ECについて、その市場規模や課題、成功のポイント、独自の取り組みで成功している事例を紹介します。(2023年12月22日更新)
食品ECとは?
EC(Electronic Commerce)は日本語では電子商取引と訳され、インターネットを通じて行われる商品やサービスの売買を意味します。食品ECとは、インターネット上で生鮮食品や加工品、食材、飲料、酒類などを販売し、全国どこへでも配送するビジネスモデルです。
消費者は指先ひとつで、日常的な食材から地方や海外の名産品まで、好きな商品を自宅で受け取ることができます。
食品ECの種類
食品ECには、主に次のような種類があります。
一般的な食品EC
生鮮食品、加工品、食材、飲料品、酒類などを販売するECです。小売店や百貨店といった販売業者のほかに、生産者や食品メーカーが直接販売するケースもあります。地方の産品の取り寄せもこのカテゴリーに入ります。独自サイトを運営するほか、モールに出店する場合もあります。
定期販売専門の食品EC
定期的に食材や加工品を配達するビジネスモデルです。安全性やサステナビリティにこだわった生協の商品を届ける「co-op deli」や、有機野菜・産直の食材や短時間で手軽に調理ができる食材セットが人気の「Oisix」が有名ですが、総合通販会社や生産者団体が行う「季節のフルーツ定期便」といった頒布会形式のECもあります。
ネットスーパー
ネットスーパーは主に既存のスーパーマーケットがインターネットで受注した店内の商品を、自宅まで配達する形態のECです。店舗によっては、午前中の注文に対して当日の夜までの配達が可能。ただし店舗を中心に配達するため、利用できる地域は限定的です。
代表的なものに、「楽天西友ネットスーパー」「おうちでイオン イオンネットスーパー」「イトーヨーカドーネットスーパー」があります。
最近では、実店舗を持たないネットスーパーが登場して注目を集めています。代表的な例が、EC大手のAmazonが2017年にスタートした「Amazon Fresh」です。Amazonプライム会員向けのサービスで、地域限定(東京・神奈川・千葉の一部エリアのみ)ですが、食品を中心に生活雑貨やベビー用品などが購入でき、朝8時から深夜0時まで配達可能です。
食品ECの市場規模
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査結果」によると、2022年の一般消費者向けECにおける物販系分野の市場規模は13兆9,997億円。そのうち「食品・飲料・酒類」は2兆7,505億円で、物販系では第1位の大きな市場となっています。
ただし、食品業界のEC化率(全商取引のうちに電子商取引が占める割合)は4.16%。物販系の一般消費者向けEC市場の平均EC化率(9.13%)の半分にも達しません。食品ECは、市場規模は大きいものの、ほかの業種に比べると立ち遅れている状況と言えるでしょう。
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食品ECの3つの課題
ではなぜ、食品業界ではEC化が進まないのでしょうか? 食品ECの大きな課題は3つあります。
鮮度を保つための物流拠点や配送が必要
消費者が食品を購入する際、重視するポイントのひとつが鮮度です。生鮮食品はもちろん、チルドや冷凍食品のような温度管理が欠かせない食品も少なくありません。
これらの食品をECで売るには、食品を保存管理する物流拠点や配送方法を準備するための投資が必要です。
競合が消費者の身近にある
日常的に使う食品は近所のスーパーやコンビニで入手できます。特に生鮮食品は自分の目で直接見て、触って確認して購入したいという人が多く、「スーパーマーケット白書2016」(全国スーパーマーケット協会/2017年1月)によれば、通信販売を利用しない理由の1位は「自分の目で見て商品を選べない」でした。
商品を買ってもらうには、ほかでは手に入らない商品が買えたり、重くて持ち運びたくない商品を届けてもらえたり、あるいは特別に価格が安いといった、そのECサイトならではの明確な差別化が必要です。
利益率が低い
食品の多くは単価が安く、利益率があまり高くありません。食品ECは一般的なECに比べて在庫管理が難しく、配送コストも高くなりやすいため、さらに利益が削られてしまいます。薄利の食品ECで利益を上げるには多くを売ることが求められますが、そのためには明確なメリットや独自性、知名度が必要となります。
ファミリーマートやローソンといった大手コンビニチェーンも、以前はネットスーパーを運営していました。しかし、商圏が狭く価格競争力が弱いコンビニ業態との相性の悪さから、利益を出せずに、現在では撤退しています。
食品ECを成功に導くポイント
こういった課題をクリアするためには、どのような点に気をつければいいのでしょうか?成功している食品ECのポイントを紹介します。
◆ 地域の特産品や名産品、有名店の商品のように、現地に行かなければ買えない食品を提供する。
◆ 安全性や環境に配慮した生鮮品、時短を実現する食材セット、プロのこだわりセレクトといった、多少高くても欲しいと思わせる特徴・独自性がある。
◆ 重いものや大きくてかさばるものなど、手で持ち帰りたくないものを配達できる。
◆ この企業(サイト)なら、商品を実際に見なくても大丈夫と思ってもらえる信頼感や知名度がある。
◆ 物流の整備や集客のための広告施策にある程度まとまった費用を投下できる。
身近な競合店で日常的に買われる食品だからこそ、そのECでしか得ることのできない商品・サービスの独自性やメッセージ性が必要です。どういったユーザーに向けて、どんな付加価値を提供するのか、しっかりとしたマーケティング戦略が成功のポイントになるでしょう。
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ブランド戦略とは?具体的な戦略の立て方と成功事例
独自の取り組みで成功している食品ECの事例
EC化が進んでいないということは、伸び代が大きいとも考えられます。そこで独自の取り組みによって成功している食品ECの事例を紹介します。
新鮮な食材+ワクワクする北海道の魅力も届けるECサイト[最北の海鮮市場]
最北の海鮮市場(運営:ノース物産株式会社)は、北海道の新鮮な魚介類、野菜や酪農産品を販売するECサイトです。オープン当初はモール中心のECでしたが、2013年にモールを撤退して、自社サイトに専念。顧客と丁寧にコミュニケーションすることでリピーターを増やし、売上を拡大してきたそうです。
サイトには豊富な商品に加えて、スタッフが手作りしている北海道の観光・グルメ情報や、野菜が育っていく様子を伝える生育日記といった、ここならではのコンテンツがいろいろ。北海道の魅力を知って楽しんでほしいという作り手の気持ちが伝わって、また訪れたくなるECサイトです。
プロ御用達、世界のこだわりの食材を販売[ハイ食材室]
楽天の「SHOP OF THE YEAR」を4年連続で受賞したハイ食材室は、生ハムやフォアグラなどの世界から選び抜いたおいしい食材を扱うECサイトです。運営する株式会社ドレステーブルのスローガンは、「良い物は良い、悪い物は悪いと本音で語れる少し面倒な食材屋」。
小規模生産者が手間をかけて作る伝統的な食品といった、これまでプロの料理人の手にしか届かなかった専門食材を、そこにまつわる物語とともにだれでも購入することができます。
日本各地の醤油をすべて100mlの小瓶で販売[職人醤油]
日本人の食卓には欠かせない調味料、醬油。濃口や淡口、溜といった種類の違いだけでなく、日本各地にその風土や郷土料理に合った独自の醤油があり、実に多種多様です。「職人醤油」では、全国400以上の醤油蔵を訪ねて集めた、100種類以上の醤油を販売しています。ただし扱っている醤油は100mlの小瓶のみ。気軽に味を試して気に入った醤油を見つけてほしいというのが同社の願いです。毎日使いたい醤油に出会えた人には、蔵元で直接大きいサイズを購入するよう勧めています。
ECサイトには醤油の種類と使い方、レシピのほか、醤油の歴史や蔵元探訪記といった醤油愛あふれるコンテンツが満載。ECからスタートした同社の商品は直営店(前橋本店、銀座松屋店)のほか、雑貨店を中心に全国で販売されています。
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自社ECサイト構築事例(Shopify)に関する詳しい解説は下記のコラムでご覧いただけます。
【保存版】Shopify構築事例(日本国内)をできる限り掲載【食品/アパレル/生活雑貨などの国内EC 40社】
課題も多い食品EC、参入には顧客視点の戦略が必要
お取り寄せや食材の定期宅配など話題になることが多い食品ECですが、食品業界のEC化率はなかなか伸びていきません。鮮度維持が必要な物流や競合の多さ、食品ビジネスの利益率の低さが、参入の障壁となっています。しかしEC化の遅さの分だけ伸び代があるとも言えます。食品ECへの参入を検討する際は、どんなターゲットに向けて、商品やサイトの個性や特徴をどうアピールするのかを考え、ときには視点を変えて新たなニーズやアイデアを探しましょう。顧客を満足させるためのしっかりした戦略づくりが成功へと導きます。
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