通販市場規模からEC事業の将来性を考える【2020年】
2020年7月に経済産業省が発表した「電子商取引に関する市場調査」(※1)によると、2019年の消費者向けインターネット通販の市場規模は19兆3,609億円で、前年比7.65%で伸びています。今後は、2020年に始まった5G(第5世代移動通信システム)の商用利用がECの活用に拍車をかけると見られています。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、インターネット通販の需要が世界的に高まるという事態も。このようなネットの通販市場規模という視点から、EC事業の将来性を考えてみましょう。
(※1)令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査):経済産業省
日本のネット通販市場規模
前述の調査では、ネット通販の市場は物販、サービス、デジタルの3分野で構成されており、このうち物販系分野の市場規模は10兆515億円、前年比8.09%の伸びでした。サービス系分野(旅行、チケット販売、飲食店の予約など)が7兆1,672億円で前年比7.82%、デジタル系分野(電子出版、有料音楽・動画配信、オンラインゲームなど)の市場は2兆1,422億円で前年比5.11%。物販系部分野はここ2年ほど伸びが鈍化していますが、まだまだ堅調に推移していると言えるでしょう。
BtoC-EC 市場規模および各分野の構成比率
※出典:経済産業省:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)矢野経済研究所の2020年のレポート(※2)によると、特に物販ジャンルの市場において、独走するアマゾンジャパンを筆頭に、ヨドバシカメラ、アスクル運営のロハコといった総合的に商品(商材)を取り扱うインターネット通販サイトの伸びが続いています。同社が指摘しているように「必要なものを同サイト内で一度にまとめて購入でき、一括で受け取れる点などの利便性の高さで消費者の生活に浸透している」ことが、強さの理由でしょう。
ファッションを扱う通販サイトでは、ZOZOやユニクロが消費者からの支持を受け、引き続き好調です。一方で、従来からあるカタログ通販企業の売上高(インターネット通販売上高)が伸び悩んでいる状況も報告されています。
(※2)「国内インターネット通販市場の調査」|矢野経済研究所
モバイル端末と5Gの普及によるEC事業の市場拡大
国内ではECを利用するときの端末がパソコンからスマートフォンへ移行したことが、市場の拡大に貢献してきました。スマートフォン経由のEC取引額は引き続き増加傾向です。スマートフォンの普及率は天井に近づき横ばいですが、今後は5G(第5世代移動通信システム)がネット通販の市場開拓に大きな影響を与えると期待されています。
5Gとは
5Gとは、「5th Generation」の略で、次世代通信規格の5世代目であるという意味です。5Gには、「超高速/大容量通信」「ネットワークの低遅延/高信頼性」「多接続性」という3つの大きな特徴があります。通信速度が高速化し、より多くの端末が接続可能になることで、新しいサービスやIoTが普及し、さまざまな産業においてデジタルシフトが加速することが考えられます。
5Gの普及により購買体験が変わる
EC 事業においては、5Gの普及により超高速/大容量通信によるライブコマースや動画コマース、VR(Virtual Reality)・AR(Augmented Reality)コマースが進展すると予測されています。
- ライブコマース
ライブ配信で商品の宣伝をする手法です。配信者がコメント欄を見ながら視聴者の反応に合わせて説明ができるため、情報不足の解消とともにテレビショッピングにはない体験をすることができます。 - 動画コマース
情報量の多い動画を使って商品や利用シーンを紹介する手法です。最近ではInstagramの動画や長尺動画アプリのIGTVを使った事例が出てきています。 - VRコマース
バーチャルリアリティの技術を使い、仮想空間内で商品の購入ができる手法です。家具の販売店であれば、顧客は仮想空間内のショールームにVRヘッドセットでアクセスし、部屋の中に家具を並べたときの大きさを疑似体験したり、家具の色を変更したりしながら商品を選ぶことができます。 - ARコマース
ARと呼ばれる拡張現実を作り出す技術もネット通販との親和性が高く、注目されています。ARアプリを使うと、比較的簡単に現実の風景にARコンテンツを重ねることができます。自分の顔や体の映像にARコンテンツを重ねる形でバーチャル試着や、バーチャルメイクアップなどの体験ができます。
このように5Gの普及によって、新しい購買体験のアイデアがたくさん生まれ、ECの市場をさらに押し広げていくと考えられます。
EC化率の伸びが緩やかな日本
EC化率とは、すべての商取引金額(商取引市場規模)に対する、インターネット商取引市場規模の割合を指します。前述の経産省の調査では、日本のEC化率は6.76%(2019年度)。過去10年間にわたりずっと右肩上がりに成長してきましたが、前年度からは0.54ポイントと微増にとどまっています。通販の市場規模が世界第1位の中国のEC化率は36.6%、2位のアメリカでは11.0%と、日本とはかなりの差があります。
日本のEC化率の伸びが緩やかな理由は、EC事業を始めることに消極的な企業が多いことや、市場規模が大きい業界のEC化が遅れていることなどが考えられます。ただし、発想を転換すれば、まだ伸び代があるとも言えるのではないでしょうか。
※出典:経済産業省:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)「食品、飲料、酒類」分野のEC化の可能性
例えば経産省の報告書を見ると、「食品、飲料、酒類」の2019年の消費者向けインターネット通販の推定市場規模は1兆8,223億円ですが、EC化率は2.89%です。この分野の市場は推定60兆円以上とされ、国内のリアル、ネットすべてを含む物販系分野の商取引市場のなかで規模が最大です。EC化率の低さはこの分母の大きさに起因していると、報告書では説明されています。でも、これだけ大きい市場でEC化が進んでいないのは、もったいないようにも思えます。
商品の鮮度が重視され、コンビニやスーパーなどの実店舗との競争になりやすい「食品、飲料、酒類」は、一般的に通販が難しい分野とされています。しかし、ネットスーパーを利用する会員数が全般的に伸びており、ミールキットの定期宅配といったトレンドも加わって、市場規模は拡大中です。共働き夫婦の増加による家事の簡素化や時短といった社会的背景もあり、今後も市場は拡大すると考えられています。また、健康食品分野のインターネット売上も着実に伸びています。
「化粧品、医薬品」「衣類・服装雑貨等」のEC化の可能性
2019年度のEC化率が6.0%の「化粧品、医薬品」や13.87%の「衣類・服装雑貨等」も、まだまだ伸びる余地がありそうな分野です。
「化粧品、医薬品」のEC市場規模はまだ小さいものの、2014年の薬事法等の改正により一部の一般用医薬品がインターネットで販売できるようになったため、特に医薬品の売上が伸びています。化粧品は、実店舗での販売、訪問販売、カタログ販売など、多様な販売チャネルを持つことからEC化があまり進んでいませんでした。しかし、あらゆる商品をECで購入する消費スタイルの定着や、スマートフォンの普及、口コミサイトの充実などにより、主戦場はECに変わりつつあると見られています。定期的に商品を届けるサービスも増えています。
「衣類・服装雑貨等」の市場拡大をけん引しているのは女性です。特に30代女性の購入が多く、スマートフォン経由の市場規模が消費者向けネット通販の50%以上を占めていると推計されている点も特徴的です。これからのファッション分野のEC事業は、ユーザーがスマートフォンで注文することを前提に考える必要があるでしょう。
日本の越境ECに寄せられる海外ユーザーからの期待
「国境を越えて行うEC=越境EC」のメリットは商圏を広げられることでしょう。特に中国には日本の約17倍、アメリカには約5倍の消費者向けインターネット通販の市場があります。越境ECは法規制や為替の変動に大きく影響を受けるため、事業の主軸として考えるときには知識や注意が必要です。しかし日本からの越境ECは海外で人気が高まっています。例えば2019年に日本の越境ECが各国で利用された金額を見ると、アメリカでは9,034億円で前年比9.7%アップ、中国では1兆6,558億円で前年比7.9%アップと好調に推移しています。
百度(バイドゥ)が1,895人を対象に実施した「中国人越境EC利用実態調査」によれば、「越境ECサイトでどこの国の商品を購入することがありますか(複数回答)」という質問に対し、購入先のトップは日本で58.0%、次いで韓国の52.5%、アメリカの48.4%、オーストラリアの26.7%、ドイツの22.2%と続きました。(※3)
「中国人が越境ECサイトで直近1年以内に購入した日本製品」について日本貿易振興機構が調査した結果では、「基礎化粧品」46.9%がトップ、続いて「メイクアップ化粧品」46.1%、「食品」43.5%、「マンガ・アニメ」43.2%、「フェイスケア用品」37.8%と続きました。中国人からコスメがよく買われていることが分かります。(※4)
(※4)中国の消費者の日本製品等意識調査(2018年12月)|日本貿易振興機構
新型コロナウイルス感染対策によるインターネット通販の需要拡大
2020年の前半は新型コロナウイルスの影響により、日本をはじめ各国でインターネット通販の需要が高まりました。2020年4月に公開された「3月下旬の国内業種別消費動向データ」によれば、新型コロナウイルスの感染拡大が続き百貨店や小売業が苦戦を強いられるなか、EC事業の業種別消費指数(マクロ)は3月前半の4.1%よりも、さらに上昇幅が拡大して6.1%のプラス成長を見せました。
インバウンド激減のECへの影響
また今後しばらくは、訪日外国人数が停滞しそうです。日本に来られない海外の人たちが日本製品を求めて越境ECで購入する機会も増えるでしょう。特に海外でよく売れる商材を扱うECサイトを運営している場合には、越境ECを始める好機となるかもしれません。
米Facebook社も需要に伴いECサービスを強化
この機を見て、新たな取り組みも始まっています。アメリカのFacebook社は2020年5月にECサービスの強化を発表し、FacebookやInstagramで商品を簡単に販売できる「Facebookショップス」を一部地域で開始しました。新型コロナウイルスに伴う外出制限で店舗販売が厳しくなるなか、ネット通販の基盤を持たない中小企業のようなところをターゲットにサービスを提供し、EC市場の取り込みを狙う意向です。
新型コロナウイルスの影響により、企業も消費者もECに頼らざるを得ない状況が出現しました。これによって、人々の生活におけるECの位置づけが一段上がったとも考えられます。今後もインターネットで注文した商品を配送してもらえる、店頭で受け取れるといったサービスの有無が、店選びのポイントのひとつとなりそうです。アメリカでは、EC対応の遅れが経営破綻につながった大手企業もあります。日本でも、ECに対応できるかどうかが、企業経営の大きな鍵となっていくでしょう。
技術の進化、ライフスタイルの変化が通販市場拡大の追い風に
国外の傾向を見ても、日本のインターネットの通販市場規模がこれからも成長を続けることは間違いなさそうです。5Gの普及によって、エンターテインメント性の高い購買体験を提供する新しいスタイルのECが、市場の成長をあと押しするでしょう。さらにウィズコロナの時代、人々のライフスタイルが変化することで、これまではひとつの選択肢だったEC事業が、必要不可欠なものに変わりつつあります。この追い風を見逃さないようにしたいですね。
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