【対談】ECにおける「おもてなしとは何か?」川連一豊氏×Klaviyo×TOPPANクロレが語る次世代のCRM
ECサイトのシステムやマーケティングツールが標準化し、誰もが同じ武器を持つようになった現代。値引きや機能競争から抜け出し、顧客に選ばれ続けるためには何が必要なのでしょうか。
今回は、EC事業支援を手掛けるTOPPANクロレの鈴木暁雄が、「ネットのおもてなし」の第一人者である川連一豊氏と、米国ボストンに本社を置き、グローバルなCRMプラットフォームを提供するKlaviyo(クレビヨ)の泉田祐樹氏を迎えて鼎談を実施。画面の向こうのお客様の心を動かす「運営の本質」から、AIを活用した最新の顧客アプローチまで、次世代のEC運営のヒントを紐解きます。
目次
1. 「ECのおもてなし」とは
私たちはお客様を「正しく理解」しているのか?
鈴木: 川連さんは2009年のご著書で、ネットショップのおもてなしを体系化されています。当時から現在まで、「ECにおけるおもてなし」の本質に変化はあったのでしょうか。
川連: 私が初めてメルマガを出して商品が売れたのは1999年頃のことですが、そこからSNSやLINEなど、コミュニケーションの手段はどんどん進化してきました。ツールが便利になればなるほど、どうしても私たちは「手段」ばかりに目が行ってしまいますが、「お客様のことを本当に分かっているか」という本質は全く変わっていません。
鈴木: ご自身でショップを運営される中で、それを強く実感された象徴的なエピソードはありますか。
川連: 私が過去に低反発枕を販売していたときのことです。サイズ展開については細かくニーズに応えることで順調に売れてはいたのですが、ある日、女性のお客様から「このサイズの枕だと一人用ですよね。パートナーと一緒に寝られる横長の枕を作ってくれませんか?」というご要望をいただいたんです。急いで特注で横長の大きな枕を作ったところ、結果的にそれが爆発的に売れました。
ECのおもてなしとは、「お客様のご要望や背景を正しく理解して、購入前後のフォローを徹底すること」に尽きます。テクノロジーがどれほど進化しても、この姿勢だけはずっと変わらないのだと思います。
鈴木: 私たちもブランド事業者様のご支援を行う中で、当事者目線からあえて一歩引き、いちユーザーとして客観的な視点から見せ方や施策をご提案することがあります。現場に立っていても、やはり顧客理解の大切さは日々実感しますね。
川連一豊氏
フォースター株式会社 代表取締役社長
ジャパンEコマースコンサルティング協会(JECCICA) 代表理事
『ネットショップで年商1億をつくる究極のおもてなし法』(2009年9月)著者
テクノロジーによる実現を考える
泉田: 私たちCRMベンダー側から「おもてなし」を考えたとき、以前はメール配信ツール、レビュー用のツール、ヘルプデスク、SNSなど、様々なチャネルに顧客情報が分断されていました。これらを1つのプラットフォームに統合することで、初めて「このお客様は何を探しているのか、いつメールを開封するのか、次に買う商品は何なのか」などの文脈が見えてきます。
鈴木: データを一元化して初めて、リアルな顧客像が見えてくるわけですね。
泉田: おっしゃる通りです。一斉配信のメールから脱却し、お客様一人ひとりに合わせてメッセージをカスタマイズしていく。これがテクノロジーで実現できる「おもてなし」の第一歩です。
海外の先進企業は、ツールの使い込み方が日本よりも一歩先を行っています。顕著なのは、徹底した自動化(オートメーション)です。顧客データベースをもとに複雑なシナリオを組み、一人ひとりに適したメッセージを配信することが定着しています。さらに、サイト内で迷っているお客様に対し、対話形式で商品を提案する「AIチャットボット」の活用も進んでいますね。
泉田祐樹氏
Klaviyo, Inc. Japan Enterprise GTM Leader
2. ツールが当たり前になった時代の差別化
鈴木暁雄
TOPPANクロレ株式会社 マーケティング本部
株式会社UNIWORX ECビジネス部
鈴木: おもてなしの本質は不変であること、そしてそれを支えるCRMについて伺ってきました。一方でECサイトの数は増え続け、またツール自体もデファクトスタンダードと呼べるものが定着してきました。誰もが同じ武器を持つ今、独自の価値をどう体験として打ち出し、差別化するかが問われています。
例えば、私たちTOPPANグループでは「RX(リアルトランスフォーメーション)」という考え方を推進しています。ECサイト上の改善だけでなく、店舗やカスタマーサポート、梱包や物流まで含め、お客様が商品を開梱する瞬間までの「リアルな顧客接点」を一貫して磨き上げようというアプローチです。
川連さんは数多くのツールやサービス、マーチャント様の事例をご覧になってきたと思いますが、どのような差別化要因があると思いますか。
対面接客の経験が成否を分ける
川連: 泉田さんのAIチャットボットのお話にも通じますが、ただツールを導入するだけでは意味がない。一生懸命やり取りしたのに最後は「詳しくはお電話ください」と突き放すような設計では、お客様は不満を抱えてしまいます。ECで実績を伸ばしている企業に共通するのは、「対面接客の経験者が運営に関わっている」という点です。
かつて私が楽器販売店を手伝っていた際、シンセサイザーを探す女性に上位機種を勧め、何も買わずに帰っていかれた苦い経験があります。お客様が本当に求めていたのはシンプルな別機種でした。売り手の都合を押し付け、お客様の顔を全く見ていなかったのです。ECも同じで、例えばバッグを販売するとしても「軽いバッグが欲しいのか」「冠婚葬祭用か」など、画面の向こうにいるお客様を想像する力が求められます。
鈴木:私たちがご支援する中でも、店長経験の豊富な方がECを立ち上げ、急成長を遂げた事例がありました。接客経験があると自然にセールスポイントを組み立てられるケースが多い。接客で培った顧客理解をデジタルの体験設計に落とし込めるかどうかは大きな差になりますね。
AI、ツールを使いこなして先んじる
鈴木: では、顧客理解をデジタルで実現するために、まず何から着手すべきなのか。国内の事業者様がまだ活かしきれていない領域や、CRM・AIを活用した有効なアプローチについて、泉田さんに伺います。
泉田:まず意識していただきたいことが2つあります。1つ目は「パーソナライゼーションの徹底」です。例えばレビュー依頼やカゴ落ちの際に、常連客には素直なメッセージを送り、新規客にはブランドの価値が伝わる文面にする。そういったお客様との関係性に応じた丁寧なコミュニケーションが競合との差を生みます。
2つ目は「AIの積極的な活用」です。これからのEC運営では、「AIにどのようなナレッジ(知識)を渡し、どんな指示を与え、どのタイミング(トリガー)で動かすか」というAIエージェントの設計が不可欠になります。ハードルが高く聞こえるかもしれませんが、Klaviyoであればシンプルな指示を出すだけで、高度な自動化フローを誰でも簡単に構築できます。こうした構築作業をAIに委ねることで、本来注力すべき「おもてなし」のアイデアや体験設計に専念できるようになります。
3. お客様の心を動かす運営の本質
鈴木: 対面接客の経験、またそれをどのようにデジタルで実装すべきかについて伺いましたが、そもそも非対面のECにおいて、担当者は「どうお客様を理解すればいいのか」と悩むことも多いはずです。画面越しにお客様と向き合う上で欠かせない心構えについて、川連さんに伺います。
購入を通して、どういう気持ちになってほしいのか
川連: 何よりもまず「購入後にどういう気持ちになってほしいのか」を考えましょう。例えばモールで安くお米を買えたとしても、お客様の記憶に残るのは「安く買えた事実」だけで、ブランドの名前は覚えられません。買った後に「このお米で本当によかった」「子どもがおいしそうに食べてくれた」とベネフィットを実感してもらうことが大切です。
鈴木:商品自体のベネフィット以外に、付加価値をつけることも重要ですね。ご支援する中で、マイルによるグッズ交換や、購入時のガチャガチャ機能の導入などの提案はさせていただくことがあります。ちょっとした「楽しい・うれしい」を付け加えて、独自の購入体験を生み出すことができます。
川連:「おまけ」も非常に強力です。テレビショッピングでテストした際も、ヨガマットを付けた時が最も売上に繋がりました。
鈴木: 私たちも自社で枕ブランドのECサイト(キング枕.com)を運営していますが、「おまけ」で足裏のリフレッシュボールをつけた時に、圧倒的に売れましたね。お客様の背景やニーズを理解したうえで「おもてなし」することが売上につながる実感があります。
お客様に合わせた「おまけ」を届けられるとより良いと思いますが、クロスセルやバスケット分析などの負荷のかかる解析もCRM側で容易に実践できるとよいですね。
泉田: そうですね。Klaviyoを活用すれば、「どのおまけを付けた人が、その後に何を購入したか」といったデータ分析も容易に行えます。以前、Klaviyoの管理画面やヘルプセンターは英語のみでしたが、日本語化にも対応しました。運営者の分析負荷を抑えて次の施策へ繋げられる環境が整っています。
鈴木:ダッシュボードも見やすく、ゲーム感覚で操作できていいですよね。
次世代は「AI」をおもてなしする?
鈴木: EC運営の本質という本日のテーマに関連して、川連さんは「2026年はAIが買い物をする時代が来る」と予測されていました。お客様側でもAIの利用が浸透していくことで、ECがどう変わると見られていますか。
川連: 最終的に購入ボタンを押すのが人間だとしても、その手前の商品を探す段階では、AIに任せることが当たり前になっている。つまり、商品がAIに選ばれなければ提案の土俵にすら上がれません。これからはお客様への配慮だけでなく、AIに好かれ、選ばれるための「AIへのおもてなし」が、事業者の新たな課題になると思います。
4. EC担当者へのメッセージ
鈴木: それでは最後に、EC事業者の皆様に向けて、お一人ずつメッセージをお願いできますでしょうか。
自動化フローの設計が売上を生み出す
泉田: Klaviyoは現在、グローバルで約20万社のお客様に導入いただいていますが、そのデータから見えてきた明確な事実があります。2026年度版のレポートによると、一斉配信(キャンペーン:Klaviyo用語)と、かご落ちやウェルカムメールといった自動化(フロー:Klaviyo用語)の割合は全体の95%がキャンペーンで、フローは5%にすぎません。しかしこれを売上軸で見ると売上全体の40%が、5%のフローから生み出されています。さらにフロー経由の方が、新規顧客獲得割合でいうと約3倍、顧客あたりの売上でいうと18倍高いというデータとなっています。このことからわかるように、まだ自動化フローを作っていない事業者様には、まずそこから構築することをご提案したいです。Klaviyoを使えば集計も自動化され、大がかりなシステムを入れずとも施策の評価が容易になります。データを基にした施策で、着実に売上を伸ばしていただきたいですね。
AI時代にこそ、長年のリアルな経験が活きる
川連: 一番重要なのは、お客様のことを正しく理解して「買ってよかったな」と思っていただくことです。そのためには全てのタッチポイントを見直す必要があり、さらにAIが浸透しつつある今、AIのことも考慮して作り直さなければなりません。
事業者の皆様はやることが多すぎてリソースが間に合っていないことでしょう。しかし、AIエージェントを使えば短時間でデータ分析も可能です。浮いたリソースをうまく配分し、お客様に気持ちよく買い物をしてもらうために活かしてほしいですね。特に、接客経験のある方がAIに的確な指示を出すと、どんどん素晴らしいものが出てくると思います。
「主体的に深く考える領域を広げていく」ことが大事
鈴木: 最後に、 私からもひとこと申し上げます。「おもてなし」と同じように、最近は「内製化」という言葉を耳にする機会も増えました。「今まで外部に委託していた作業を内部で行う」という狭い捉え方もあるかと思いますが、もう少し広い意味での「内製化」が大事だと感じています。
それは、単なる作業の巻き取りではなく、「主体的に深く考える領域を広げていく」ことです。AIやツールを活用することで効率化し、今までは代理店頼みであった広告戦略の見直しについて考える時間を増やしていく等です。大切なのは、戦略や戦術の指針を自社で主体的に考える意識を持ち、そのうえで外部の協力パートナーと共創していくことだと考えています。そうすることで、自社のお客様について考える機会が自然と増え、さらなる成長の機会を生み出すことができるはずです。
川連さん、泉田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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