アンケートの作り方~上手な設問設計のポイントを丁寧に解説
仕事で調査を担当することになったら、まず何から考えればいいのでしょうか? このコラムでは、調査設計から集計・分析までのプロセスのほか、設問を考えるときのポイントや集計・分析時の注意点などを解説します。顧客の評価を把握し課題の改善に役立つとして注目されている「顧客満足度調査」を取り上げて、具体的な設問の立て方や事例も紹介しています。ぜひ参考にしてください。
アンケートの設計方法
顧客を対象にアンケートを実施する場合の、基本的な設計方法について順を追って説明します。
ステップ1:調査の目的を明確にする
まずなぜアンケートを行うのか、調査の目的を明確にします。調査はアンケートを取って終わりではありません。アンケート結果を分析して顧客の声を把握し、課題の改善や、商品・サービスの品質向上に役立てるためのものです。
アンケートで知りたいのはブランド全体に対する評価なのか、個別の商品やサービスについてなのか、スタッフの対応も含むのかといった調査の範囲によっても、アンケートの方法や設問が変わってきます。目的を明確にしないまま調査をすると、求めるデータと回答との間にズレが起きて有効な結果が望めません。
ステップ2:調査対象を決める
調査の目的が明確になったら、誰に対してアンケートを行うのか調査対象を定めます。顧客のなかから一定の条件で調査対象を絞るのか、顧客全員に向けて行うのか、また調査のサンプル数はどの程度必要なのか、調査の目的から逆算して決めていきます。
ステップ3:設問を設計する
設問の設計はアンケート作成の核となる重要なステップです。まず、顧客の心理・行動を想定して仮説を立て、どのような質問をするかを考えます。事前に下調べをする、カスタマージャーニーマップを用いるなどして緻密に仮説を立てておくと、ブレの少ない設問を作ることができます。
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カスタマージャーニーマップに関する詳しい解説は下記でご覧いただけます。
カスタマージャーニーを把握する目的とは?マップの作り方、活用例も紹介
ステップ4:アンケートを実施する
アンケートの方法には、WebフォームやLINE、郵送、電話、対面調査など、さまざまな種類があります。自社のビジネスの形態や顧客の属性、アンケートを行うタイミングを考慮して、ふさわしい方法を選びましょう。
ステップ5:アンケートを集計・分析する
アンケートの結果を有効活用するには、的確な集計・分析が重要です。調査目的に合った適切でわかりやすい集計表やグラフを作ることで、分析がしやすくなります。分析をするときは、仮説を意識しつつも予断を持たず、客観的にデータを読むことを心がけます。
上手な設問設計の3つのポイント
顧客への調査では、商品やサービスへの正直な感想を引き出す必要があります。アンケートに答えてもらっても、本音とは異なる適当な回答しか得られないのであれば、調査は失敗となります。
回答者が適当に答えてしまう原因の多くは、煩わしさや面倒さを感じさせる設問・構成にあります。有効な調査結果を得るには、回答者がストレスなくスムーズに回答できるかどうかを注意する必要があります。以下の3つのポイントに気をつけて設計しましょう。
ポイント1:シンプルな設問を心がける
ひと目で質問の主旨が理解できない設問や、いくつものことを聞く複雑な設問の場合、回答者は深く考えることが面倒になるため、適当に答えるリスクが高まります。できるだけシンプルに、パッと見て意図が分かり、すぐに答えられる設問にするよう心掛けましょう。1つの設問で聞くことは1つだけにします。
ポイント2:設問の数はできるだけ絞る
設問は必要なものだけに絞り、項目の数はできるだけ削りましょう。設問が多い場合、回答者が「早く終わらせたい」と思って適当に回答してしまう可能性があります。
ポイント3:適切な回答形式を用いる
回答の形式にも気を配りましょう。一般的には以下のような回答形式があります。聞きたい内容によって適切なものを選びます。
単一選択型
回答を選択肢のなかから1つだけ選ばせます。回答者の思考にかかる負担が最も少なく、回答率が高い形式です。
複数回答型
選択肢のなかから当てはまるものをすべて(または指定した数まで)選択させる形式です。
順位型
選択肢のなかから順位をつけて当てはまるものを選択させる形式です。
自由記述型
自由に記述(回答)させる形式でフリーアンサーとも言います。生の意見を聞くことで、こちらが想定していない課題が見つかる場合があります。ただし回答者に考えさせる度合いが大きいため、自由記述の質問が多くなると、無回答や適当な回答が増える傾向があります。
以上の3点に注意して、本音を引き出せる設問を考えていきましょう。
代表的な「顧客満足度調査」の設問設計
代表的な顧客満足度調査の手法を参考に、自社のビジネスに合ったアンケートを設計するのも有効です。
顧客満足度調査とは?
顧客満足度調査とは、顧客が商品やサービスにどの程度満足したかを測る調査のことです。商品の品質や事前の期待感、使用後の満足感など、さまざまな角度から調査することにより、満足の度合いを客観的に数値化します。
代表的な顧客満足度調査には、JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index=日本版顧客満足度指数)と、顧客推奨度調査があります。JCSIは顧客が満足したかどうかを計測するだけでなく、満足度を上下させている理由や利用者のその後の行動について、分析と比較をする手法です。顧客推奨度調査は、その商品やサービスを家族・友人に勧めたいかどうかという推奨意向を調べることによって満足度を測る調査です。
顧客満足度調査の設問
JCSIでは、次の6つの観点から質問をします。これらを参考にして設問を考えるのもよいでしょう。結果を数値で把握するため、「10点満点のうち何点か?」といった採点形式で評価や意向を聞くようにします。
- 顧客期待:商品・サービスを利用する前に顧客が持っていた企業・ブランド、商品への印象や期待感を聞く
- 知覚品質:実際に商品・サービスを利用したときに感じた、品質への評価を聞く
- 知覚価値:商品・サービスの品質と対価を対比して顧客が感じた納得感、コストパフォーマンスへの評価を聞く
- 顧客満足:商品・サービスを利用して感じた満足の度合いを聞く
- 推奨意向:利用した商品・サービスの内容を肯定的に人に伝えるかどうかを聞く
- ロイヤルティ:今後も商品・サービスを使い続けたいか、もっと頻繁に使いたいかといった再利用の意向を聞く
アンケートを集計・分析するときのポイント
アンケートを回収したら結果を集計し、データを分析します。
アンケート集計の手順
集計は有効回答と無効回答を分けることからスタートするため、事前に有効回答の定義をしておきましょう。そしてまず単純集計を行い、設問ごとの回答比率や全体の回答傾向を把握します。次に2つ以上の設問の回答を掛け合わせるクロス集計によって、特定の属性の回答傾向などを明らかにします。選択式の回答と、「回答の理由を書いてください」といった自由記述がセットになった設問の場合には、回答傾向とフリーアンサーとを突き合わせて読んでいきます。
データを正しく把握するための準備
データの読み間違いを防ぎ、正しく集計を進めるには、集計表やグラフを分かりやすく作ることが大切です。
複数の単位で集計表を作る
集計は異なる単位ごとに整理して行い、データを混同しないようにしましょう。例えばある質問にAと答えた人数が50人いたとします。この質問の有効回答者数が100人の場合はAと回答した人の割合は50%ですが、有効回答者数が500人であれば10%と少数派になります。また同じ50%の回答率でも、10人のうちの5人の回答と、100人のうちの50人の回答ではデータへの信頼性が変わる場合があります。回答数と%を併記した集計表を作りましょう。
分かりやすいグラフを作る
集計データをグラフにすることにより、差異や傾向を把握しやすくなります。ただし適切なグラフのスタイルは回答の形式や集計方法によって異なります。
単純集計の場合、単一回答のデータは円グラフや棒グラフで表すと分かりやすく、複数回答のデータは棒グラフや折れ線グラフを使用すると見やすくなります。
クロス集計の場合、単一回答のデータは比較しやすいように帯グラフを並列させると読み取りやすくなります。さらに複雑になる複数回答のデータには、棒グラフと折れ線グラフを併用するといった工夫が必要です。
分析の際の注意点
いよいよデータの分析です。分析の際には次のような点に注意しましょう。
全体から細部へとデータを読む
まずは大まかに集計データ全体を俯瞰(ふかん)し傾向を探ってから、徐々に細部のデータ分析へと移るのがセオリーです。最初に全体の傾向を把握することで、個々のデータの位置づけを確認しながら、読み解いていくことができます。
有意性を考慮する(サンプル数、構成比)
集計したデータの有意性をチェックしましょう。有意とは、確率論や統計で使われる言葉で「確率的に偶然とは考えにくく、意味があると考えられる」ことを指します。有意性のあるデータとは、統計データとして使うことができる「意味のある数値」ということになります。有意性を確認する際のポイントとなるのは、サンプル数とサンプル内の構成比です。
アンケートは調査する人数(サンプル数)によって信頼性が左右されます。サンプル数が調査対象の母集団の実数に比べてあまりにも少ないと、偏ったデータになる可能性があり、母集団を代表する結果と言えなくなります。全体では一定の回答数があっても、クロス集計をすると数が小さくなってしまい、有意性が失われることもよくあります。分析の際にはサンプル数を確認し、有意性の低いデータに傾向が引っ張られないようにします。
性別や年代といった属性の構成比が、回答者と母集団とで大きくかけ離れている場合にも、母集団の傾向を正しく反映した結果とは言えず、データの信頼度は低下します。例えば、顧客の7割が50代、60代の女性というサービスで顧客満足度を調査したところ、回答の半数以上が30代、40代の女性だったとします。そのまま結果を分析すると、実際の顧客よりも若い層に振れた全体傾向が出てしまいます。分析時に年代別の傾向を確認したり、実際の構成比に合わせて集計数を調整したりして、有意性を失わないような注意が必要です。
顧客満足度調査の設計と活用例~美容業A社の場合
美容室を複数店舗で展開するA社は、売上を向上させることを目的に、電話による顧客満足度調査を行うことにしました。近隣の競合店や低価格理髪店に負けないよう、独自サービスの考案を含めて解決の道筋を探ることが調査のテーマです。
アンケート前の仮説では、売上を向上させるには「施術以外のサービスが重要ではないか」と考え、具体的な新規サービスとして「無料Wi-Fiの設置」や「ドリンクサーバーの設置」が挙がりました。これらの仮説を踏まえて、以下のことを聞く設問を作成し、調査を行いました。
〈設問〉
- 店舗への来店頻度
- 店舗への評価
- 近隣のほかの店舗に対する印象
- リピートにつながる要素(単一回答)
- リピートをしなくなる場合の最大要因(単一回答)
- 求めているサービス
- カウンセリングや施術時の満足度
〈調査結果〉
調査の結果、中高年の顧客からの満足度は高い一方、若年層の評価は分かれており、安さや目新しさを求めて競合店へ流れてしまう可能性もあると考えられました。新規サービスについての評価では、無料Wi-Fiの要望は強いものの、ほかのサービスに関しては「どちらでもいい」という回答が目立ちました。
リピートをする要因では「施術の仕上がりが望み通りになっていること」、「仕上がりの丁寧さ」が指摘されました。リピートをしない要因には「施術やカウンセリングで顧客の要望を丁寧にくみ取れていないこと」が挙がり、また若年層からは「他店舗の方が安価」という声が多くありました。
この結果を受けて、A社ではカウンセリングの質を向上させるために、ネット予約のフォームに仕上がりへの要望を記入できるようにしたほか、退店時に次回の来店を促すクーポンを配布し、前回の仕上がりの満足度を5段階で記入してもらうようにしました。これらの施策の結果、数ヶ月で既存顧客の来店頻度が高まり、仕上がりの満足度の数値も向上したそうです。
アンケートを適切に作り、課題の発見や品質向上に役立てよう
今回は主に顧客満足度調査をテーマにアンケートの基本的な作り方を解説しました。顧客満足度調査は、顧客の評価を客観的に把握し、課題の発見や商品・サービスの品質向上につなげるために行います。適切な調査設計を行って正しいデータを集めて分析し、企業経営の向上に役立てましょう。
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