ブランド・エクイティとは?その意味や構成要素を解説
ブランド戦略に沿って継続的な努力を重ねることによって、ブランドの価値が向上します。その価値を「資産」と見なすという考え方がブランド・エクイティです。ブランド・エクイティの基本概念と活用方法を詳しく紹介します。
ブランド・エクイティとは?
ブランド・エクイティ(Brand Equity)とは、「ブランドが持つ資産価値」のことで、ブランドという形のないものを資産として評価し、その価値を高めるために育成や投資をしていこうとする考え方です。
エクイティ(Equity)とは、金融の世界では「株式資産」「自己資産」を指す言葉です。人気の高いブランドには多くのファンが付きます。彼らは繰り返し購入をしたり、口コミによって新規顧客を呼び込んだりして、そのブランドの利益率を高め、企業の成長を支えてくれます。
しかしどんなに人気があっても、顧客の期待にそぐわない商品を販売したり、社会的に反感を買うような事件を起こしたりといったことがあると、ブランド・エクイティが一気にマイナスに転じることがあります。例えば、エネルギー企業の石油タンカーが転覆して海洋汚染を引き起こしたり、自動車メーカーが性能検査の結果を改ざんしたりといった事件があれば、ブランド・エクイティは下落します。
このような信頼や知名度といったものも含む、無形だけれど企業の価値に影響を与える「ブランド」を、有価証券や不動産と同じような“企業が持つ資産”として評価しようとする姿勢から、ブランド・エクイティの考え方は生まれました。資産とは将来の利益を見込んで保有するものなので、ブランドは単に維持すればいいというものではありません。資産価値を向上させるために、育成や投資といった積極的なマネジメントをしていかなくてはなりません。
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ブランドの価値を向上させ、ブランド・エクイティを高めるためには適切なブランド戦略がかかせません。具体的な戦略の立て方については、次の記事で詳しくご紹介しています。
ブランド戦略とは?具体的な戦略の立て方と成功事例
ブランド・エクイティを高めるメリット
ブランド・エクイティが高まると次のようなメリットがあります。
- ブランドの知名度により、利用者が安心できる
- ブランドのイメージにより、利用者が優越感を得られる
- ブランドを指名して購入してくれる顧客が増えるため売上が伸びる
- 価格競争に巻き込まれなくなる
- 顧客がほかの顧客にブランドを勧めてくれるため新規顧客が獲得できる
- リピーターが増えることでビジネスが安定する
例として、ブランド・エクイティが高いブランドのスニーカーはノーブランドのスニーカーよりも値引きや販促の努力がなくても売れるといったことが挙げられます。ブランド・エクイティを高める最も大きな利点は、上記のようなさまざまなメリットが結び付き、利益を生みやすくなることなのです。
ブランド・エクイティの構成要素
では、具体的にどのようなことがブランド・エクイティとなるのでしょうか?ブランド・エクイティの構成要素のモデルには、「アーカーモデル」と、「ケラーモデル」の2つがあります。それぞれのモデルについて説明します。
アーカーモデル
アーカーモデルは、カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクールのディビッド・アレン・アーカー名誉教授が提唱しました。アーカーはブランド・エクイティについて、「ブランドの名前やシンボルと結び付いたブランドの資産(または負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増大させるもの」と定義し、次の5つの要素から成り立つとしています。
以下でそれぞれの要素を詳しく紹介します。
1.ブランドロイヤルティ(Brand Loyalty)
ブランドロイヤルティはブランドへの忠誠度や愛着度のことで、5つの要素のなかでも特に重要な要素です。ブランドロイヤルティが上がると、ブランドを継続的に購入したり利用したりする割合が高まります。ブランドロイヤルティを測定する方法には、「そのブランドを親しい人に勧める可能性がどれくらいあるか?」という質問を行うことで企業や商品に対しての愛着・信頼度を数値化する「顧客推奨度調査」がよく使われます。
2.ブランド認知(Brand Awareness)
ブランド認知度は、ブランドがどれくらい知られているかを表します。人は安心感から、知っているブランドを選ぶ傾向があります。そのため有名なブランドの方が、より高い資産価値があると評価されるのです。近年では、ブランド認知という言葉は単にブランドの名前を知っているかどうかだけでなく、その内容や文化への理解までを含めて使われることが多くなっています。
3.ブランド連想(Brand Associations)
ブランド連想とは、顧客がブランド名を聞いたときに連想できるすべてのものを指します。その連想の多くは、広告や口コミ、自分の体験などがもとになります。例えば「ニベアクリーム」と聞いて何を連想するでしょうか?青いパッケージ、手ごろな価格、母親が使っていた……といったことや、広告の影響から母親が子どもに塗ってあげるイメージが思い浮かぶ人もいるかもしれません。商品を使った経験がある人は、香りや使い心地も思い出すでしょう。ブランド連想は、競合と差別化するための基盤となります。顧客にポジティブではっきりとした連想をしてもらえるようにブランディングを行う努力が必要です。
4.知覚品質(Perceived Quality)
ブランドの品質への評価を知覚品質と言います。知覚品質は実際の品質、あるいは企業側が判断する品質ではなく、消費者が認識する品質のことです。製品の機能やスペック、性能だけではなく、信頼感や雰囲気といったことに加えて消費者が主観的に判断するさまざまなことが含まれます。企業側がいくら「自分の商品は高品質だ」と訴えても、顧客がそう考えないのならば、知覚品質は低いのです。
ブランドの知覚品質を上げるためには、信ぴょう性や説得力を持って価値を伝えることが大切です。信ぴょう性を持って価値を伝える方法はいろいろありますが、そのひとつにブランドの信念やこだわりを大事にする姿勢を見せることが挙げられます。例えば、Appleではスティーブ・ジョブズの時代から「シンプルなデザインを重視する」と言い続けており、実際にその言葉を守ってきました。顧客は信念を貫くブランドを信頼し、その製品を高品質だと感じるのです。
5.その他のブランド資産(Brand Assets)
特許や商標権、著作権といった知的所有権や、独自の技術やノウハウ、取引先や顧客との強い関係性など、ブランドの価値を支えて利益を生む無形のものも、ブランド・エクイティです。例えば商標権を持っていれば、競合企業が同じようなシンボルや名前を使えなくなり、顧客を混乱させずにすみます。また特許があれば、独自の技術が法律で保護されます。このように競争相手からブランドを守る力も資産として見なされるのです。
ケラーモデル
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのケビン・レーン・ケラー教授が提唱したケラーモデルは、アーカーモデルよりも顧客ベースでブランド・エクイティを考えています。レベル1を達成できれば普通のブランド、レベル4まで達成できればブランド・エクイティが高いブランドであるというように、ブランドをマネジメントしていくプロセスをピラミッド型で表現しています。
- レベル1 ブランドの認知(Brand Identity)ブランドの突出性
- レベル2 ブランドの意味づけ(Brand Meaning) 特徴の理解―印象・イメージ
- レベル3 ブランドに対する反応(Brand Response) 理性評価―感性評価
- レベル4 共感や同調(Resonance)
レベル1 ブランドの認知(Brand Identity)ブランドの突出性
最初のレベルは、顧客がブランドを見てほかのブランドと区別できるように、認知を広めることです。ピラミッドの上の部分を支えるためには、ブランドに対する深くて広い認知を獲得しなければなりません。
レベル2 ブランドの意味づけ(Brand Meaning)特徴の理解―印象・イメージ
次のレベルは、「ブランドの特徴や価値が理解されているか」と「どういう印象・イメージを持たれているか」の2つに分けて考えます。そのブランドの商品が何をするもので、どんな特徴を持っているのか、顧客に理解されているでしょうか?また、ブランドイメージは意図したとおりに顧客に伝わっているでしょうか?
レベル3 ブランドに対する反応(Brand Response)理性評価―感性評価
3番目のレベルは、ブランドに対する顧客の反応(評価)です。品質や機能に対する理性的な評価と、感情的な評価の2つに分けられます。理性評価では、品質、信頼性、特別感があるかなどが評価項目となります。また感情評価では、楽しさ、興奮、安全、社会的に認められているかといったことが評価項目となるでしょう。それぞれの評価項目はブランドのポジショニングやブランドのコンセプトに沿ったものでなくてはいけません。
レベル4 ブランドに対する共感や同調(Resonance)
ピラミッドの頂に当たるのはブランドに対する共感や同調です。ブランドと顧客の間の心理的な絆とも言え、アーカーモデルでいえばブランドロイヤルティに当たる部分です。この共感によって、ファン同士が絆で結ばれることもあります。このレベルに達すると「家族や友人に勧めたい」「このブランドがなければ困る」「ブランドに愛着を感じる」といったことを顧客に思ってもらえるようになります。
[トピックス]最も価値のある日本ブランドランキングで資生堂が躍進(ブランド・エクイティが高い例)
ブランド・エクイティが高いブランドとは、具体的にどのようなブランドを指すのでしょうか?
WPPグループとそのグループ企業であるカンターは、毎年「ブランドZ」というブランド資産価値調査をもとにした世界ランキングを発表しています。2020年度には、「ブランドZ トップ50 最も価値のある日本ブランドランキング」も発表され、1位を獲得したのはブランド価値総額289億ドルのトヨタでした。2位にはNTT(同201億ドル)、3位にはホンダ(同117億ドル)がランクインしました。
そして、好事例として注目されたのが資生堂(12位、同60億ドル)の躍進です。2018年~2019年の資生堂のブランド価値の上昇率は56%を記録。従来のブランディングを変更し、より世界に目を向けた施策を行い、欧米で拡大するアジアブランドとして人気を博しました。製品ポートフォリオには、消費者の問題意識に応え、環境問題への取り組みを反映しています。
ただしこの調査で世界ランキングにランクインした日本企業は、トヨタ(41位)とNTT(70位)だけでした。日本ブランドの「海外での活躍度(海外からの売上高、販売数量、収益性を組み合わせた評価基準)」は、ブランドZの調査対象国の平均値を下回りました。
調査結果のリリースでは、日本ブランドが「ブランド・エクイティのギャップ」を埋め、グローバルでの競争力を改善するには、誰もが欲しがるような高い品質を消費者に提供し続けるとともに、自社のブランドの成功を下支えしている要素を探し当てること、その要素をマーケティングで強化したり、ほかにはない取り組みを進めたりすることが必要であると指摘しています。
ブランド・エクイティの視点でブランドを見直そう
ブランドという形のないものを、企業価値を左右する資産として評価し、その価値を高めるために育成や投資をしていこうとする考え方が、ブランド・エクイティです。この記事ではマーケティングの視点で整理された、ブランドの構成要素や価値を高めるためのプロセスを紹介しました。自社のブランドをブランド・エクイティの観点から見直してみましょう。輪郭があいまいに見えたブランドの価値がより明確になるはずです。
企業ブランディングについて、もっと理解を深めたい方はこちらの資料もご覧ください。
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