【2021年版】EC化率とは?EC化の現状と課題、これからの展望
インターネットを通じた取引が国内や特定の業界、個別の企業においてどの程度行われているか、その普及状況を正確に表すための指標がEC化率です。この記事では、EC化率とは具体的にどのようなものなのか、そして2021年版のEC化の現状や課題、これからの展望について解説します。
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【2022年最新版】EC化率の現状は?コロナ禍の影響と業種別トピックス
EC化率とは
EC化率とは、すべての商取引額(商取引市場規模)の中で、インターネット商取引の市場規模が占める割合を示すものです。この「すべての商取引」には、店頭販売、電話やカタログによる通販といったあらゆる販売方法を含みます。EC化率からは、国や特定の産業においてECの活用がどの程度進んでいるかを数値で知ることができます。
すべての商取引と同様にECにもBtoCとBtoBがあります。BtoCはBusiness to Customerの略で消費者向けのビジネスを意味し、BtoC ECとは消費者を対象としたインターネット通販のことです。一方、BtoBはBusiness to Businessの略で企業間の取引を指します。つまりBtoB ECとは法人向けに行うECです。
BtoC ECとBtoB ECでは市場規模もEC化率も大きく異なるため、次章から分けて解説していきます。
BtoC EC市場におけるEC化率
2020年の日本におけるBtoC ECの市場規模は、19兆2,779億円(前年比0.43%減)とこれまで右肩上がりに伸びてきた経年推移で初めて対前年減となりました。その原因は、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の外出自粛の影響によるものです。物販系分野はEC利用が高まり、市場規模は12兆2,333億円、前年比プラス21.71%、EC化率についても前年から2.04ポイント増の8.08%と伸長しました。その一方で旅行やイベントなどのサービス系分野の市場規模は4兆5,832億円、前年比マイナス36.05%と大幅に減少しました。
表:BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)
BtoC ECには、物販系、サービス系のほかにデジタル系(市場規模2兆4,614億円:伸長率14.90%)が発表されています。ここでは物販系分野でEC化率が高い上位3業種と、EC化率が低い下位3業種についてその傾向や特徴を解説します。
表:2019年と2020年の物販系分野BtoC-EC市場規模
※出典:経済産業省:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)
EC化率が高い上位3業種
1位 書籍、映像、音楽ソフト(オンラインコンテンツを除く)EC化率42.97%
国内EC市場において最もEC化率が高いのは、昨年2位だった「書籍、映像、音楽ソフト」で、前年から8.79ポイント増の42.97%と伸長しました。市場規模も1,6238億円と前年比24.77%の伸長率でした。
物販系分野の「書籍、映像・音楽ソフト」とは紙の本、DVD、CDといったパッケージ商品を指します(※)。書籍やCDは、売れ筋以外にも少量多種の商品が市場に出回るロングテール型商品なので、在庫や売り場を確保しなくてもよいECでの販売方法に向いています。また初期のAmazonに代表されるように、書籍のECはインターネットの黎明期からあり、ECで購入することに抵抗感がない人が多いことも、高いEC化率に影響しているようです。ちなみに昨年の1位は「事務用品、文房具」で、今年はランク外となっています。
※電子書籍やストリーミングサービスは、デジタル系分野でカウントされます
2位 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 EC化率 37.45%
前年比28.79%増と、昨年に続き市場規模の成長率が最も高かったのが「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」です。この業種は製品の仕様が明確で、ユーザーは自分が求める仕様で、各種メーカーの特徴や価格をさまざまなECサイトで調べたり、比較したりできることから、店頭よりもECで購入する機会が増え、EC化率も高まりました。
一方で高額な商品が多いこの業種では、販売店で現物を確認してから購入したい人や、販売員から詳細に説明してほしい消費者もいます。大型家電量販店では、そういったニーズに応えようとECサイトと実店舗の連携を重視する取り組みも始まっています。
3位 生活雑貨、家具、インテリア EC化率 26.03%
「生活雑貨、家具、インテリア」は昨年5位から3位以内にランクイン。市場規模も前年比22.35%増と伸長率も高くなりました。外出自粛の影響で「お家時間」が増えたことから、家具やインテリアの需要が高まったこと。また、テレワーク用に専用のデスクや椅子などを購入した方も多かったことが推測されます。
この分野も高額な商品が多いので、現物を確認したり、試したりしてから購入したいというニーズが高いので、EC化は後発でしたが、家電のようなオムニチャネルへの対応が進めば、長引くコロナ禍の中で、さらにEC市場の拡大が予測されます。
EC化率が低い下位3業種
8位 自動車、自動二輪車、パーツ等 EC化率3.23%
自動車メーカーのECへの参入はこれまでもあまり進んでおらず、EC化率が低いだけでなく市場自体が2,784億円と小規模です。実はアメリカでも「車・車用品」のEC化率は3.7%。インターネットによる車の販売自体がまだ新しい取り組みだと言えます。
日本国内でメーカー・正規ディーラーが自動車をECサイトで直販している例としてはTesla社があります。また、TOYOTAは2020年9月に中古車の公式オンラインストアをオープンしました。楽天でも中古車に特化したECサイトを同8月に開設しており、中古車を中心に今後の成長が期待されます。
7位 食品、飲料、酒類 EC化率3.31%
商品の鮮度が重視され、コンビニやスーパーといった身近な店舗が競合になる「食品、飲料、酒類」は通販が難しい分野と言われますが、EC化率は昨年の2.89%から3.31%と伸長しました。また、市場規模も2兆2,086億円と2位の生活家電や3位の生活雑貨等の分野とほぼ同じ規模です。食品関連全体の市場規模が推定60兆円以上と大きいため、参入が増えてもEC化率が上がりにくいのです。
しかし、これからの伸び代は大きいと考えられており、在庫管理や物流の効率化を通して、運営コストを下げる取り組みが進めば、EC市場はもっと拡大していく分野といえるでしょう。
6位 化粧品、医薬品 EC化率6.72%
化粧品や医薬品は、身近にあるスーパーやドラッグストアといった実店舗で安価に購入できるため、ECサイトの利用が伸びにくいといわれる分野です。それでも市場規模は7,787億円と昨年より17.79%伸長。この背景としては、消毒用のアルコールやマスク、常備薬などのニーズの高まりが推測されます。
この分野のEC化率を上げるには、実店舗を上回る利便性や付加価値をECに付加する必要があります。例えば即日配達や定期便などの利便性や、化粧品分野では、店頭での顧客体験とECサイトでの購入を連動させるような取り組みが必要になりそうです。
BtoBのEC化率
次に、2020年のBtoB ECにおける、EC化率についてみていきましょう。
表:2019年と2020年のBtoB-EC 市場規模の業種別内訳
出典:経済産業省:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)
日本のBtoB EC市場規模はBtoC ECの約20倍
日本のBtoB EC市場規模はとても大きく、2020年には334兆9,106億円でした(ただし、前年比では 5.3%減)。EC化率も前年から1.8ポイント増加して33.5%と非常に高くなっています(EC化率は「その他」を除いています)。
市場が大きい理由は、BtoBで扱う金額が大きいことと、従来からBtoBで使われてきたEDI※(特定の相手と専用の回線をつなぐシステム)を経由した取引金額が、ECの数字に含まれていることが挙げられます。
また、業務効率の向上という視点でEC化を推進する企業が増えています。対面や電話で注文を受けたり、書面による受発注管理をやめることが、作業量やヒューマンエラーの削減につながるからです。
※EDIは、Electronic Data Interchangeの略語で、日本では「電子データ交換」と呼ばれることもあります。企業が受発注や納品を行う際、従来のように紙の帳票や請求書を発行するのではなく、専用回線やインターネットを使って電子データをやりとりするシステムのことを指します。
新型コロナウイルス感染拡大の影響は
たとえば、製造業の中でも食品は、消費者による外食やホテル利用の減少により、市場規模は対前年比マイナス0.5%と減少していますが、EC化の動きは加速し、EC化率は対前年比4.0ポイント増の63.3%となっており、ECによる取引は今後も広がっていくことが予想されます。
その他の製造分野や情報通信、卸売業においても市場規模は減少あるいは微増であっても、EC化率は堅調に伸びていると言えます。
市場規模が縮小してもEC化率が伸びる理由
製造分野の鉄・非鉄金属業や卸売業では市場規模が縮小しているにもかかわらず、EC化率は前年よりも高くなっています。経産省の資料ではその理由について、それぞれの業界で利用されているEDIの稼働が進んでいるためと推測しています。EDIの利用の増加はBtoBのEC化率上昇の要因のひとつとなっています。
EC化の課題
日本のBtoC EC化とBtoB EC化の課題には次のようなものがあります。
BtoC ECにおけるEC化の課題
新型コロナウイルスの影響で、日本のBtoC EC化率が高まったとはいえ、他国と比べるとまだ低い状況です。通販の市場規模が世界1位の中国のEC化率は、コロナ禍の2020年10-12月には31.6%、2位のアメリカでは14.0%と、日本の8.08%と差があります。
日本でのEC化率が伸び悩む理由には、ECへの参入に消極的な企業が多いこと、市場規模が大きな業界のEC化率が低いことがあげられます。しかしEC化率が30%を超えて成果を上げている業種も多く見られ、今後、食品や化粧品・医薬品といった業種の参入がさらに進めば、日本のBtoC ECのEC化率も底上げされていくでしょう。
BtoB ECにおけるEC化の課題
今もたくさんの企業が、特定の相手と専用回線を結ぶ方式のEDIを利用しています。BtoB ECにおける問題は、この方式で使われてきたISDN回線が2024年のISDNサービスの終了によって使えなくなることです。「2024年問題」と呼ばれているこの問題を回避するために、多くの企業がISDNのEDIからBtoB ECやインターネットEDIに移行しています。その結果、今後BtoBのEC化はさらに進むと考えられています。
EC化の展望
このような現在のEC市場の状況を踏まえ、今後のEC化の展望を考えてみましょう。
コロナ禍の影響によるデジタルシフト
2020年から続く、世界的なコロナ禍のもと外出を控えることが増え、消費活動のデジタルシフトが進んでいます。企業側の動向としても実店舗の販売が困難になったことや、ECの需要が高まったことから、EC参入が加速しました。楽天市場の発表によると、2020年12月の楽天市場の流通総額は対前年同月比+50%弱の成長を記録。その要因のひとつとして、楽天グループ(株)の三木谷社長は「消費者の行動のトランスフォーメーションが起こった」と説明し、この傾向はまだ続くと話します。このように消費活動のデジタルシフトとEC参入の加速は今後もしばらく続きそうです。
出典:楽天Today「百年に1度の社会改革で何が起こるか?~楽天新春カンファレンス2021、三木谷基調講演レポート~」
メーカー直販(D2C)への参入が増加
現在、D2Cに取り組む企業が増加しており、この傾向は今後も続くと考えられます。D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、ECサイト上で自社商品を直接消費者に販売するビジネスモデルのことです。D2Cビジネスにおいては、中間マージンがないため利益率が高く、顧客と直接コミュニケーションできるといった利点があります。参入の増加には次のような背景があります。
1点目は、SNS経由でECサイトを訪れるユーザーが増加していることです。検索エンジンに依存しなくても、SNSを活用することで、製品のオリジナリティやメッセージに共感してくれる、比較的ロイヤルティの高いユーザーを効率的に集客することが可能になりました。
2点目は、テクノロジーの進化によって、高いセキュリティを保ちながら、独自のECサイトを簡単に構築できる、クラウドベースのEC構築サービスが増えたことです。2020年以降はBASEやShopifyなど、低コストで始められる手軽なECプラットフォームの成長が目立ちました。
越境ECの成長
海外でもコロナ禍の影響によりECサイトの利用者が増えています。越境ECも例外ではありません。2019年の世界の越境EC市場規模は7,800億USドルと推計され、その値は2026年には4兆8,200億USドルにまで拡大すると予測されています。
また、越境ECにおいては、配送料が課題となっていますが、昨今の物流レベルの高まりも越境ECを促進する要因の一つとなっていることが考えられます。
表:世界の越境 EC 市場規模の拡大予測
出典:経済産業省:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)
まとめ:国内のBtoC EC市場は物販系が好調、EC化率の成長が期待される
日本のBtoB ECの市場規模は非常に大きく、EC化率も2020年は33.5%とデジタル化がいち早く進んでいます。BtoC EC市場のEC化率も進んだとはいえ8.08%と、中国やアメリカに比べて遅れており、市場規模の大きな食品や化粧品・医薬品での進展が待たれるところです。コロナ禍は消費者の生活スタイルに変化をもたらし、デジタルシフトを加速させています。今後もEC化率の推移を注視していく必要があると言えるでしょう。
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