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顧客と企業の価値交換のループを回せるかがDX推進のカギ〜小畑陽一氏【後編】
Webマーケティング
2021.6.24
デジタルマーケティングの賢者たち(8)小畑陽一氏【後編】
前編では、UNCOVER TRUTH社がCDP活用支援サービス事業に行き着いた背景や、CDPの効果的な活用方法について、お話しいただきました。
後編では、データ取得の具体的なテクニックやCDP導入を成功させるためのポイント、今後の展開についてうかがいます。
見込み客のスコアリングは訪問回数や流入経路ではなく行動データから
鈴木:多くのユーザーの中で見込み客をスコアリングする際は、流入経路とかで見ていくんですか?
小畑: CRMの文脈でいうと、思い出し訪問がオーガニックではなく広告経由でもいいので、流入経路にスコアの高低はつけないです。それよりも、粘着度が高いユーザーを特定するために、該当ユーザーが習慣的におとずれる際の行動にスコアを付けます。それも頻度ではなく、何をみて、どんな学びを得てもらったか、どんな機能を利用していただいたか、そういうデータでスコアリングしていくんです。
このスコアモデルを作るときにも仮説は重要で、どういう行動をとったときにこのコンテンツやアプリの重要度が高まっているのか、とか、お客様の能動性の高い行動軸ってなんだろうとかを、企業のビジネスモデルを理解しながら仮説を立てて探っていきます。
鈴木:そのスコアモデルを作るときって、ウェブサイトにタグを入れたりするんですか?
小畑:そうです。単純にPVだけでは数字として不十分なので、Googleアナリティクスにカスタムイベントを設定して、スコアにしてCDPに落とすとか、そんなところからスタートですね。
ビジネスの課題は定量的データで理解可能な形にする
鈴木:特定の顧客の熱量をCDPに取り込む手法としては、インパクトのある数字を示した顧客IDに対して、NPS®(顧客推奨度)を測るメルマガを打ってみて、答えてくれた人の定性的なものをCDPに入れていくのでしょうか?
小畑: NPSはそんなに頻繁には使わないです。むしろアンケートをやるなら別の用途ですね。例えば不動産とか、車とか、保険とか、オフラインでのみ購入・契約するような「リアル営業モデル」のケースでよく使います。
住宅メーカーを例にすると、住宅展示場に来場予約をしてくれた人の情報をどれだけ事前に知っておくかは、営業情報としてとても重要ですよね。土地を持っているか、どんな間取りにしたいか、建材にこだわりはあるか、もっと具体的に言うと「どれぐらいの真剣度合いなのか」を営業マンは一番知りたいわけです。これまでのビジネススタイルだと、営業マンが時間をかけて聞き出して、手帳に書いていたような情報を、来場前に取るための仕掛けをWeb上に作ります。「間取りの作り方」、「建材について」、「建築例」といったコンテンツを用意して、訪問回数や流入経路などから、検討度合のスコアリングの仕組みを作ることで真剣度合いを推しはかることができます。
アンケートは、コンテンツとセットで来場予約フォームを設置する際などに活かします。例えば「不動産購入時の面倒なことワースト5」みたいなコンテンツを作って、その面倒を解消しますとうたいつつ「あなたは土地持っていますか」、「相続ですか」といった、事前に知っておきたいリッチなユーザー情報をYES、NOで聞いていく。ユーザーにとっても、コンテンツは自分の役に立つし、面倒を解消してくれるのであればと、自然にアンケートに回答してくれるわけです。来場予約をして住宅展示場にお見えになった時には、営業サイドではユーザーのホット度合いが事前にわかっているので、ホット度合が高い場合にはちゃんと商談を成立させるためのアプローチ戦略を整えることが可能です。
鈴木:なるほど。ユーザーのWeb上の行動をしっかりと数値化することで、従来のビジネスモデルや営業スタイルの変革というか、事業成果に直結するような効果を提供できるのですね。
小畑:ビジネス課題を定量的に理解可能な姿にしたいと思っています。先ほど住宅メーカーの例で、来場予約というビジネスの入口のところのお話しをしましたが、途中でもおなじです。お客様の検討期間は、商材によってかなり違いますが、営業マンは数字がいかなくなると発破をかけられ、休眠リストに電話をかけまくるような行動をとられていることも多いかと思います。ですが、CDPを使えば、ユーザーが検討から一回離れた後に、再度検討段階に入った際の兆しをマーケティング側が検知することが可能になります。サイト訪問やメルマガ購読の再開などを検知して、その再度検討段階に入った兆しを営業側に橋渡しできる状態にできれば組織のサイロ化を乗り越えることもできるのです。
CDPは価値交換のループをシームレスに回すためのただの装置
鈴木:とはいえ、CDPを導入しようとするとやはり非常にコストもかかりますよね。導入したけどうまくいかないという話もよく聞きます。
小畑:はい。実際に僕たちに相談をいただくお客様にも多いです。CDPというか、もうちょっと広くDXというときに一番大事にしているものを、僕は「価値を交換するループ」と呼んでいます。BtoBでもBtoCでも、最初にCDPの文脈で出てくるのは「顧客の解像度を上げたい」なんですね。熱量の高い顧客のデータをどうやったら取れるかとか、先にそっちに話が行っちゃう。それは企業側の理屈であって、重要なのは、顧客にとってのより良い体験だったり、情報だったり、課題解決ですから、企業側は最初にGIVEしないといけない。不動産のケースでもボトルネックを最初に解消して、最初にGIVEしてあげる。そうすれば結果としてリッチなデータがTAKEできるんです。
鈴木:なるほど。
小畑:(前編で紹介した)アパレルの事例にしても、まずはスタッフが素敵なコーディネート例を毎日GIVEする。それを見ている顧客のデータを見ると、その顧客の好きな系統という情報がTAKEできて、リッチな「顧客カルテ」として蓄積できるわけです。
顧客により良い体験価値を提供する、その価値を受け取った顧客が起こした行動をデータで取得する、ということが「価値交換のループ」なので、このループが成立した会社がうまくいっていると感じます。CDPを使うなら、このループが存在するか、作れるかを先に考えることが重要で、僕が提案書の一番初めに書く内容になります。
CDPはあくまでもそれを増幅させるための手段というか、価値交換のループをシームレスに回すための装置なので、装置としてうまく機能するなら、高いCDPを買わなくてもGoogleビッグクエリみたいな安く利用できるクラウドでも同じことができます。
新規ではなく既存顧客とのつながり強化が企業の課題
鈴木: CDPありきではなくて、やりたいことの基盤としてCDPが合うかどうかを検討すべきということですね。今後サードパーティcookieの規制とかで、CDPはどう展開していくとお考えですか?
小畑:これまでのように広告でからめとって、リターゲティングすることが今までのようにできなくなりますよね。広告の費用対効果が見えにくくなり、新規顧客開拓に積極的に投資ができなくなる。ある程度の会員を持っている企業ならCRMの方に人員と予算を配分し直そうというのが喫緊で皆さん考えていることだと思います。
また、サードパーティcookieの規制は見方を変えるとチャンスかもしれません。ユーザーから信頼のあるブランドであれば、cookieの承諾率を高めることができると思います。ユーザーからデータ利用の承諾をもらえればファーストパーティデータがリッチになり、それは競争優位性そのものになると思います。既存顧客を大事にしてブランドの信頼性をコツコツと積み上げている企業が優位になる仕組みだと思っています。
鈴木:既存顧客を大事にするというのは、商売の基本ですよね。僕の実家は自営業で寿司屋を経営しています。かなりスモールビジネスですけど、父の頭の中がCDP状態で、お客さんは全てID管理されていますね(笑)。
小畑:僕は、収益のメカニズムをトランスフォーメーションすることがDXだと思っていて、顧客との関係値の変化もトランスフォーメーションではあるんですけど、関係値を変えるだけで売り方が変わらなかったら別に変革でもなんでもない。その時に大事なのが価値交換のループであり、ブランド価値が変わることだと思うんですよね。
鈴木:今後、僕たちのお客様にもある程度のデータを統合していく基盤みたいなものを用意していきたいなと思っていますので、UNCOVER TRUTH社さんの提供価値を組み合わせたパッケージも展開していければと思っています。
小畑:そうですね。よろしくお願いします。
鈴木:今日はとても勉強になるお話しが聞けました。ありがとうございました。
*ネット・プロモーター® 、ネット・プロモーター・システム® 、ネット・プロモーター・スコア®及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。 eNPS℠はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。
デジタルマーケティングの賢者たち(8)小畑陽一氏【前編】
「CDPで可視化する顧客行動。マーケティングのポイントはユーザー起点」はコチラ>>
株式会社UNCOVER TRUTH 取締役 COO
music.jpやルナルナを手がけるエムティーアイ社出身。ソリューション事業責任者として、大手企業向けモバイルサイト構築ソリューションで、国内ナンバーワンのASPサービスを展開。2014年、取締役として株式会社UNCOVER TRUTHの取締役COOとして経営に参加。経営・事業戦略とマーケティングを管掌。 ad:tech Tokyo / Kyushu、宣伝会議、MarkeZine、Web担当者フォーラムなど講演活動多数。
著書:『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』(CDP専門書籍)執筆:DXnote(CDP専門メディア)
TOPPANクロレ株式会社 デジタルマーケティング部 プロデュースグループ主任
2012年TOPPANクロレ入社。商業印刷物全般、スペースメディア、キャンペーン、Webマーケティングに従事した後、関連企業のデジタルマーケティング部署に出向。大手製菓メーカー、トイレタリーメーカーを担当。2019年4月よりTOPPANクロレのデジタルマーケティング営業部に所属。アカウントマネージャーとして、顧客の課題解決施策を企画・立案。また、プロジェクトマネージャーとして、社内外のメンバーを統率し数々のプロジェクトを推進中。
TOPPANクロレのデジタルマーケティング支援サービス
TOPPANクロレでは、WebサイトやEC事業の構築・リニューアルも含めた幅広いデジタルマーケティング支援サービスを提供しています。お客様の課題や外部環境を踏まえた上で、企業(またはブランド)の強み・特長を、データに基づいて洞察、咀嚼/翻訳し、課題解決へ向けた戦略プランの設計から運用までをお手伝いしております。
「TOPPANクロレが描くDX時代のマーケティング透視図」のページでは、当社の「デジタルマーケティング支援サービス」の導入企業のご担当者様や、デジタルマーケティング界の識者の方々へのインタビューを通じて得られた「生の声」を掲載。ぜひお客様のマーケティング活動にお役立てください。