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BtoBマーケティングの実態とは。組織の「5世代モデル」で解説~上島千鶴氏【前編】
マーケティング・販促
2020.06.04
デジタルマーケティングの賢者たち(3)上島千鶴氏【前編】
DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれる中、BtoB分野でもデジタルマーケティングに力を入れる企業は増加中です。しかし、これまでオフラインでの営業活動を中心にビジネスを回してきたBtoB企業にとって、事業のデジタル化は簡単なことではありません。自社の取り組みがなかなか進まないことに対して不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
経営者やマーケターに向けたスペシャルインタビュー「デジタルマーケティングの賢者たち」では、お客様のマーケティング課題や事業課題に対して、TOPPANクロレが毎回さまざまなスペシャリストの方々から、ビジネスの成功に向けた金言を引き出しています。
今回は、TOPPANクロレで自社のマーケティングに取り組む先田早織が、170社超のBtoB企業のマーケティングをコンサルティングしてきた上島千鶴氏にインタビューを行い、BtoBビジネスにおけるデジタル化の意義や進展状況を伺いました。「マーケティング組織5世代モデル™」についてもご紹介いただいております。今後の戦略立案のために、まずは自社の立ち位置の理解からはじめるとよい、とのご意見をいただきました。では、詳細は以下をぜひご確認ください。
“戦略”としてのデジタル化を推進し、顧客の体験価値を高める
先田:最近、BtoBビジネスにおいても、DXやデジタルマーケティングに注力する企業が増えているように感じます。市場全体の動向を、コンサルタントとしてどのようにご覧になっていますか。
株式会社Nexal
代表取締役
上島氏: 2018年後半くらいからグローバル展開している製造業を中心に、DXの一環でデジタルマーケティングの取り組みが、より加速化している印象があります。
とはいえ、私たちが実施した調査では、実はマーケティング部門などの組織が設置されている企業は上場企業でもまだ1割程度にとどまっています。残りは、営業部門や広告・宣伝部門の中などに機能が分散しているのが現状です。「デジタルマーケティング」と言っても、この言葉には、マーケティングをオンライン上で実施するという“手段の話”と、データやデジタル接点の活用によって事業全体を最適化したり改革したりするという“戦略の話”の2つの文脈があります。
一般的なBtoB企業では、オフラインでの営業活動が主流のため、マーケティングをデジタル化するだけでは効果も限定的と言えます。そのため、営業活動も含めて顧客との接点を見直し、事業全体を見直すことが必要となります。
TOPPANクロレ株式会社
ソリューション開発推進部
先田:BtoBの企業は、具体的にはどのようなデジタルマーケティングに取り組んでいるのでしょうか。
上島氏:「ヒト、モノ、カネ」の流れが変わってきている中で、そうした変化に対応するために、販売体制や営業の仕組みなど、抜本的に見直す企業が増えています。また、国内では少子高齢化が進んで働き手が減り、国内需要を期待するのは難しいため、縮小する国内市場をにらみ、企業が生き残りをかけて事業構造自体を変えようとする動きも出てきています。
デジタル化を推進し成功に導くためには、“売り手”意識から“買い手”の視点を取り入れ、顧客の体験(エクスペリエンス)価値をデジタルやデータで高めることが必須となります。BtoCビジネスの場合は「CX(カスタマー・エクスペリエンス)」といわれますが、BtoBビジネスでも「ABX(アカウント・ベースド・エクスペリエンス)」という考え方があります。
多くの企業が自社の価値として顧客体験を実現するべく、DX推進という大号令のもと、デジタルプラットフォームの環境整備、情報システムの刷新、商流やチャネルの見直しなど、変革に向けたさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
成熟度に応じて5段階に分けられるマーケティング組織
先田:BtoB企業において、「マーケティング組織の5世代モデル™」を掲げているそうですね。
上島氏:BtoB企業のマーケティング組織には第1世代から第5世代まであり、世代が上がるごとに成熟したモデルだと考えています。
まず第1世代は「分散型」で、マーケティング機能が社内の各組織に分散している企業です。現状では、ほとんどが第1世代でしょう。第2世代は分散していた機能を1つの組織に集めた「機能集約型」です。組織としてまとまったとはいえ、戦略に乏しく、マーケティング活動の評価指標が間接的であっても、受注や売上に紐付けることまでできていません。
第1世代、第2世代がMA(マーケティング・オートメーション)ツールを導入しても、メール配信として使うだけで、十分な顧客管理や分析ができていないため成果は期待できません。
第3世代は「ファネル型」と呼び、マーケティングに戦略があり、それぞれの施策や活動で作り出した見込み顧客が、どの程度受注に紐づいたか、事業に貢献できたか、一連のプロセスとして数値で把握できています。ただ、BtoBビジネスですと、リードタイムが大変長く、引き合いから受注まで1年や長いと3年かかる商材もあるため、捉えきれない数値もでてきます。そうした場合には、業種や組織を中心としたABM(アカウント・ベースド・マーケティング)に取り組み、CRM(顧客関係管理)と連携して管理していきます。
先田:第4世代、第5世代へ進むと、デジタル化やデータ活用がより活発化するのでしょうか。
上島氏:第4世代は「ダブルファネル型」で、新規顧客からの案件創出だけでなく、既存顧客にも積極的にアプローチして、デジタル接点を基点に新規案件を創り出せている状態です。
例えば、部品や素材メーカーのように既存顧客中心にビジネスが回っている企業は、国内で新規取引企業が増える余地はありません。そこで、自社のWEBサイト閲覧履歴などのデジタルデータをセンサーや予兆アラートとして使い、既存の取引企業の別部署の人たちが閲覧していたら、営業部門につないでアプローチしています。
第5世代は、「社内のどの部門の誰が、どの顧客の誰と、いつ接点を持ったのか」がほぼリアルタイムにデータとして可視化されている状態です。特にオフライン接点(電話や訪問)を即時データ化するにはどうするか、仕組みが導入されつつあります。そのため、先ほど申し上げた「ABX(アカウント・ベースド・エクスペリエンス)」という観点でも最適化されており、マーケティング活動の影響範囲が見通せています。海外では、弾み車を意味する「フライホイール型」などとも呼ばれますが、顧客を中心にすべての事業部、すべてのデータがつながっている状態なので、私は「サイクル型」と名付けています。
このBtoB企業の「マーケティング組織5世代モデル™」は、自社のマーケティングがどの世代にあたり、今後進展させるために何をすべきか理解するためのものです。「自分たちは第1世代だからダメだ」と決めつけるのではなく、自社の現状を客観的に把握したうえで、次のステップやこれからの取り組みの指針になればと思っています。
株式会社Nexal 代表取締役
行動解析・データ駆動型のマーケティング歴20年。国内で初めてナーチャリング概念を啓蒙し、MAやCXMの市場創造に大きく貢献した。オンラインとオフラインのデータを繋ぎ、CXを実現するための戦略策定から実行計画、DMP/CDP/CRM再構築などのDX推進プロジェクトにも参画。全てのタッチポイントを顧客基点に再設計するBtoCビジネスや、事業戦略からマーケティングを定義し組織成長を後押しするBtoBビジネス向けコンサルティングに従事。著書に『マーケティングKPI「売れる仕組み」の新評価軸』(日経BP社)、『Web来訪者を顧客に育てるリードナーチャリング』(日経BPコンサルティング)、『リードビジネス「打ち手」大全』(インプレス)などがある。
TOPPANクロレ株式会社 ソリューション開発推進部
自社のマーケティングを担当。2017年にデジタルマーケティングの考え方を自社に取り入れ、WEBサイトリニューアルのプロジェクトリーダーを務める。インサイドセールス機能の立ち上げにも従事。お客様に向けて有益な情報発信を行うべく日々奮闘中。
TOPPANクロレのデジタルマーケティング支援サービス
TOPPANクロレでは、WEBサイトやEC事業の構築・リニューアルも含めた幅広いデジタルマーケティング支援サービスを提供しています。お客様の課題や外部環境を踏まえた上で、企業(またはブランド)の強み・特長を、データに基づいて洞察、咀嚼/翻訳し、課題解決へ向けた戦略プランの設計から運用までをお手伝いしております。
「TOPPANクロレが描くDX時代のマーケティング透視図」のページでは、当社の「デジタルマーケティング支援サービス」の導入企業のご担当者様や、デジタルマーケティング界の識者の方々へのインタビューを通じて得られた「生の声」を掲載。ぜひお客様のマーケティング活動にお役立てください。