山本:御社はNPS®という調査の分析を通じてCX、つまり顧客体験価値の最大化を提唱されていますが、まずはCXについて教えていただけますでしょうか。
山本:CXを改善すると、どういったメリットがあるのでしょうか?
須藤氏:サイトや店舗で良い体験をすると、企業やブランドに対する信頼度が向上し、商品を購入してくれる可能性が高くなります。また、一度購入してくださったお客様がロイヤルカスタマー、つまりファンになってくださる可能性も高くなります。そのことでお客様のLTV(Life Time Value/ライフ・タイム・バリュー/顧客生涯価値)が上がり、売上アップや事業成長につながります。
山本:ロイヤルカスタマーを作る、ファンを作る、という視点で言うと、似たようなものにCS(顧客満足度)という手法もありますが、CXとCSはどういう違いがあるのでしょうか?
須藤氏:CSはお客様満足度、CXはお客様体験と、両方ともお客様の気持ちという感情データを収集し、それを分析して改善していく点は似ています。一方でゴール設定が違います。CS活動はお客様満足度を高めるということ自体がゴールなので、その先のサービス利用状況や事業成長までは問われず、CS部門は売上には貢献しないコストセンターとして見られがちでした。逆にCX改善のゴールはあくまで事業の成長や企業収益の向上です。そのため、CXM(顧客体験マネジメント)は売上をつくるプロフィットセンターと考えられています。
山本:CXの計測のために活用されている、NPSという指標に関して詳しく教えてください。
須藤氏:NPS®とは大まかに言い換えると「顧客推奨度」です。企業や商品に対してどれほどの信頼や愛着があるかという顧客ロイヤルティを数値化する指標です。質問は簡単で、お客様に「あなたはその商品やサービスをお知り合いにどの程度お勧めしたいですか?」と聞き、10点満点で採点してもらいます。
山本:質問としては非常にシンプルですよね。これまで主流だった顧客満足度の質問と、どこが違うのでしょうか?
須藤氏:日本では1990年頃から顧客満足度は使われるようになりました。「あなたはその商品やサービスに満足していますか?」という質問は直感的にわかりやすいですが、長らく使われた結果、実は満足していると答えていても、その後商品やサービスを利用しない人が多いことがわかってきました。
そんな中でアメリカのコンサルティングファームがいくつかの質問を試してみたところ、「他の人に勧めたいと思いますか?」という質問が、もっともお客様のその後の購買行動や事業成長との関連性が高いとわかり、2003年にハーバードビジネスレビューで発表したのがNPS®の始まりです。
山本:NPSをどのように活用してCXの改善を進めていくのでしょうか?
須藤氏:NPS®はあくまでも会社や商品に対する信頼や愛着度を示す最終成績表のようなものです。それだけでは何を改善すれば点数を上げられるのかがわかりません。そこで「勧めたいですか?」だけでなく、その点数に影響を与えている体験が何なのかを調査します。その内容をカスタマージャーニーマップに落とし込んで、どこを改善すべきかの優先順位や、施策を行うことによる改善効果の大きさの予測を図で見ていただくことができます。当社が独自に開発し、特許を所得しているシステム「EmotionTech」によりカスタマージャーニーマップを作成することができます。
▲資料出所:EmotionTech|カスタマージャーニーマップとは?作り方を紹介!
https://www.emotion-tech.co.jp/resource/2017/howtomake_customerjmap
Emotion Techのカスタマージャーニーマップ分析。それぞれの企業の顧客接点のうち、NPS®の点数に及ぼす影響の大きさ(青線)と現状の点数(赤線)との差がわかり、改善ポイントの優先順位が提案される
山本:LTV向上を目指して、CXMで気を付けるべきこと、重要なことはなんでしょうか?
須藤氏:CX全体の価値が上がれば、LTVも上がります。そのためにはまず、自社のお客様がどういうカスタマージャーニーをたどっているのかいうことと、担当者様の目線で何が今お客様のロイヤルティに影響を与えているのかについてしっかりと仮説を持っていただくことです。そうするとその後の調査や分析、改善施策が組み立てやすくなります。
山本:お客様のカスタマージャーニーを正確につかむのは、かなり難しいのではないでしょうか?
須藤氏:そうですね。なのでアンケートのお客様の声からヒントを得て作り直していきます。お客様はそんなところを重視していたんだと発見することもよくあります。たとえば通販サイトの場合では、「送られてきたときの梱包が丁寧なのが良かったです」や「梱包が雑で嫌でした」のようなコメントがあるとすると、カスタマージャーニーの中に「梱包」を加える、といった具合です。そうすると次回の調査では、梱包について広くきちんとお客様に聞くことができ、どう思われているのか、CX全体にどういう影響を与えているのかが分析できます。
山本:調査を繰り返して都度改善を進めていくということかと思いますが、実際どのぐらいの頻度で調査されることが多いですか?
須藤氏:ビジネスモデルによりますが、近年は頻繁に調査するケースが多くなっています。ネット通販やWEBサービスでは、アンケートにご協力くださいとポップアップで表示させたり、購入完了メールに回答用のURLを掲載したりします。そうやって調査をし続けることでNPS®の点数が日々どう変わっていくのかをモニタリングする会社も珍しくありません。
山本:継続して集計をすることで、何か改善施策をした前後の状態を正確に比較できるということですね。
須藤氏:そうです。WEBビジネスに限らず、小売や飲食などの店舗ビジネスでも、テーブルの上の注文用タブレットにアンケートを表示させたり、レシートにアンケート回答用QRコードを印字したりして継続的に回答を受け付けて、施策を行った前後のNPS®の変化を知ることができます。それによってCX改善の精度が高くなり、ロイヤルカスタマーの育成やLTVの向上が可能になります。
山本:ありがとうございました。
インタビュー後編では、引き続き須藤様にCXを活用して売上を伸ばした企業の事例や、CXMの将来像などを聞きました。ぜひ続けてお読みください。
ネット・プロモーター® 、ネット・プロモーター・システム® 、ネット・プロモーター・スコア®及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
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TOPPANクロレでは、顧客体験に関する「調査」から、調査結果をもとにした「戦略策定」、最終的なアウトプットとしての「施策の実行・運用」まで、ワンストップで支援を行っています。オンライン・オフラインを問わずコミュニケーション施策の実行と、継続的なPDCAまでまるごとお任せいただける点が特長です。詳しくは以下のページよりご確認ください。
大阪大学法学部卒業後、ソフトバンクグループ人事部門にて人事業務に従事。その後、IoTメディア・モバイルコマース領域にて起業、資金調達の実施などを経て現職。 株式会社Emotion Techにおいては、マーケティング部門及びHR事業領域の責任者として、企業のお客様評価や従業員評価向上を推進。コロナ自粛中に自転車通勤をはじめ、週2〜3回の出勤時は片道40分の自転車通勤でカラダを動かしているという。
2014年TOPPANクロレ入社。代理店や大手携帯キャリアを担当し、商業印刷物全般および店頭販促、キャンペーンなどの企画設計に従事。2019年1月よりTOPPANクロレのデジタルマーケティング営業部の立ち上げに参画。立ち上げ後は営業としてインサイドセールスの拡充に関わりながら、CRM/CXM領域の支援サービスを推進。
TOPPANクロレでは、お客様に寄り添い、課題や外部環境を踏まえた上で、企業(またはブランド)の強み・特長を、データに基づいて洞察、咀嚼/翻訳し、課題解決へ向けた戦略プランの設計から運用までをお手伝いしております。WEBサイト/ECサイトの構築やデータ分析からWEB広告の企画・運用まで、幅広くおまかせいただけますので、少人数で成果を求められているご担当者様にお役立ていただけます。
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