モノが売れない時代に「モノを売らずに収益を上げる」という発想から生まれたのが、サブスクリプション型ビジネスです。
いまやメディア業界だけではなく、小売業や飲食業、さらには製造業までもが定額で利用できるサービスを開始しています。しかし、ビジネスを成功に導くためには、サブスクリプションサービスの特徴をきちんと理解することが必要です。
今回は、サブスクリプションとは何か、その概要とメリット・デメリットについて、またどんな業界がどのようなサブスクリプションサービスを展開しているのか、さまざまな事例をご紹介します。
サブスクリプションとは、「定額料金を支払うことで、一定期間、商品やサービスを利用できる」ビジネスモデルのことです。「月額〇〇円で利用し放題」といった料金設定が主流で、企業が消費者に商品やサービスを売り渡すのではなく、定額で貸し出すというイメージです。
「貸し出す」といっても、単なるレンタルのような1回きりのサービスとは異なり、長期間にわたる契約を前提としています。
企業がサブスクリプションサービスに注目する背景には、2つの社会現象があります。
ひとつは、消費スタイルが「所有」から「利用」へと変化していることです。
2008年のリーマンショック以降、モノの所有には大きな初期投資が必要となることから、所有に執着しない消費者が増えてきました。サブスクリプションサービスではモノを所有できない代わりに低コストで利用できるため、節約志向の消費者から支持されるようになりました。
もうひとつは、インターネット環境が整い、スマートフォンが普及したことです。
通信回線の高速化や安定化が進んだことで音楽や動画を気軽に楽しむ環境が整ったことも、サブスクリプションサービスの人気を加速させました。
続いて、サブスクリプションサービスのメリットとデメリットを紹介します。企業と消費者の視点から見ていきましょう。
サブスクリプションサービスは月額契約を基本としているため、顧客が解約しない限り毎月安定的な入金が期待できます。
契約を結ぶときに個々の顧客の情報が入手できるため、商品企画や販促に役立てることができます。
飲食業やメーカーの悩みは、顧客が他社に乗り換えることです。サブスクリプションサービスでは顧客と長期にわたる関係を築くことが期待できます。
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ロイヤルカスタマーに関する詳しい解説は下記でご覧いただけます。
ロイヤルカスタマーとは?その定義と育成のポイント
サブスクリプションサービスでは需要が予測を上回ると採算が合わなかったり、価格が高すぎると利用者が見込めなかったりなど、価格設定が困難です。
顧客が短期で解約すると元が取れないケースが多いため、解約防止のために常に目新しい商品やコンテンツを提供しなければならないという工夫が必要です。
メーカーがサブスクリプションサービスの展開を大々的に行うと、商品を買わずに利用する人が増えるため、小売店で商品が売れなくなる可能性があります。
レンタル型のサービスの場合、商品を購入するよりも安いコストで利用できます。利用し放題型のサービスでは、利用頻度が高ければ高いほど、お得に利用できます。
気がつくと数が増えてしまいがちな服や本、おもちゃなどを、必要なときにだけ利用できます。保管スペースの確保や収納に頭を悩ませる必要がありません。
利用し放題型のサービスやキュレーション型のサービスの場合、普段は利用しないものを試すきっかけになるため、新たな好みを知る楽しみがあります。
サブスクリプションサービスに一旦申し込むと、必要がなくなったときに自分から解約しなければならないという手間が発生します。
レンタル型のサービスの場合、どんなにお金を払い続けても買い取れないので、場合によっては購入した方がお得です。
キュレーションサービスなどでは、自分の好みではないものが提案されることがあるので、自分の価値観やセンスに合ったサービスを選ぶことが重要です。
近年、サブスクリプションモデルを導入する企業が急増しています。業界別に動向をまとめながら事例を紹介します。
メディア業界では、各社が豊富なコンテンツを保持しており、サービスの契約者が継続しやすい価格で配信することで成功しています。
【事例】
・音楽配信サービス
SpotifyやApple Music、Amazon Music Unlimitedは、いずれも月額980円(税込、2019年2月現在)で音楽が聴き放題になるサービスを提供しています。有料会員でなくても全曲を楽しめるSpotify、Apple製品との相性が良いApple Music、レコメンド機能が優秀なAmazon Music Unlimitedなど、それぞれの特長を生かしたサービスが展開されています。
・動画配信サービス
定額制動画配信サービスにおいても、月額の安さとコンテンツの豊富さが勝負となります。日本テレビと提携して国内の作品を強化したHuluや、オリジナル作品や字幕表示に強いNetflix、動画以外の多くのサービスも利用できるAmazonプライムビデオなどが有力です。
小売業では、消費者が購入する手間を代行するサービスが主流です。商材は、日用品や食品のように日々の買い物が欠かせないものから、コンタクトレンズのように「つい忘れがちなもの」に至るまで多岐にわたります。
【事例】
・おかん
毎月、手づくりの味のお惣菜を届けてくれるサービスです。1ヶ月冷蔵保存が可能で食べきりサイズになっているため、食事が疎かになりがちな忙しいビジネスパーソンなどに便利です。
コンタクトレンズの定額制サービスで、豊富なラインアップが人気の理由です。このサービスでは、度数の変更やレンズの紛失などへの柔軟な対応にも優れています。
飲食業では、都度の支払いではなく「月額〇〇円」というお得感で顧客の来店を促しています。
【事例】
・野郎ラーメン
関東で展開するラーメン店。チェーン店であることを強みに、どの店舗でも利用できる定額制「1日一杯注文できるサービス」を実施しています。ラーメン好きには嬉しいサービスとなっています。
製造業では、初期投資金額の高い商品をお試しで利用できるという点を売りにして、サブスクリプションサービスに参入しています。
【事例】
・トヨタ「KINTO」
トヨタが2019年1月に開始した国内初の定額利用サービス。好きなときに好きな車種に乗り換えられるため、多種多様な車を楽しめるほか、整備や保険などの手間が省けるという点も、顧客にとっては大きなポイントです。
消費者の好みやニーズに合わせて厳選したアイテムを届ける「キュレーションサービス」を行うスタートアップ企業が急成長しています。
【事例】
・BLOOMBOX
ビューティーアドバイザーがおすすめするコスメが毎月届く定額制サービス。季節やトレンドだけでなく個人の好みを重視した「あなただけのコスメ」が提案される点が、おしゃれを楽しみたい女性に支持される理由です。
子どもの月齢に合わせて選ばれたおもちゃが届く定額制レンタルサービス。おもちゃは子どもの成長とともに増えていくアイテムなので、定額で必要なときにだけおもちゃを借りられる利便性が注目を集めています。
さまざまな業界が注目するサブスクリプションサービスですが、期間契約型のビジネスならではの難しさや課題もあります。サブスクリプションサービスのメリットとデメリットを理解した上で、消費者が求めているニーズを敏感に察知して応え続けることが、モノが売れない時代にビジネスを成功させる秘訣でしょう。
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