物販分野における2024年のBtoC-EC市場規模は、15兆2,194億円に達し、前年の14兆6,760億円から約5,435億円増加しました。これに伴い、EC化率は9.78%となり、前年から0.40ポイント増加しています。
新型コロナウイルス感染症の影響により、2020から2021年にかけてEC化率は急激に伸びました。2022年、2023年と増加のペースは緩やかになったものの、2024年は再び0.40ポイント増と伸長しており、ECでの購入が消費行動として定着し、安定した増加傾向が続いていることが分かります。
物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移
(市場規模の単位:億円)
次に、物販系分野BtoCのEC化率を業種別の市場規模とともにみていきましょう。業種別の市場規模、EC化率は以下のとおりです。
物販系分野のBtoC EC市場規模
物販系分野のBtoCを業種別にみると、市場規模が最も大きいのは「食品、飲料、酒類」で3兆1,163億円、次いで「衣服、服飾雑貨等」が2兆7,980億円です。
一方、EC化率が最も高いのは「書籍・映像・音楽ソフト」で56.45%と半数を超え、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」が43.03%で続いています。
このように、市場規模とEC化率には大きな差異があり、各分野でECの浸透度や競争環境が異なることがわかります。
また、EC化率の伸び率に注目すると、「書籍・映像・音楽ソフト」が+3.00ポイントで突出して高く、次いで「生活雑貨、家具、インテリア」が+1.04ポイントと高成長を見せています。これは、EC化率がすでに高い分野(書籍・映像・音楽ソフト)でも成長の勢いが衰えていないこと、および、EC化率が中程度の分野(生活雑貨、家具、インテリア)でECへの移行が加速していることを示しています。
ここでは、EC化率の伸び率が高い順に、各分野の市場トピックスを解説します。
書籍・映像ソフト、オンラインコンテンツを除く音楽ソフトから構成される分野です。
2024年のEC化率は56.45%(前年比+3.00ポイント)と7分野で最も高く、伸び率も他分野を大きく上回っています。
この分野は、消費者があらかじめ購入したい商品が決まっており、実店舗とEC店舗での商品価値がほとんど変わらないという特徴があります。型番や商品名さえわかれば店舗の比較がしやすいことからECとの相性の良い分野です。
とくにコロナ禍以降の巣ごもり需要で電子出版の市場規模が拡大傾向にあったこともEC化率が高い要因といえるでしょう。ただし、2024年は前年比プラス0.59ポイントと横ばいにとどまっています。
また、映像・音楽ソフトについても、動画配信サービスの普及を背景に需要が減少しており、EC市場規模は微減傾向にあります。EC化率は上昇しているものの市場規模が縮小しているため、今後はECでの競争がさらに激化すると予想されます。
「生活雑貨、家具、インテリア」は、一般家具やインテリア、台所用品などの家事雑貨だけでなく、洗剤といった家事消耗品や寝具類も含まれる分野です。
2024年のEC化率は32.58%で、伸び率は+1.04ポイントと高水準を維持しています。市場規模も2兆5,616億円(前年比+3.62%)と拡大傾向にあります。
日用品や家具消耗品は、コロナ禍の外出控えによりストック需要が増加してから、ネット購入が定着しています。2022年以降伸び率は鈍化したとはいえ、依然としてストック需要・ネット購入需要の増加傾向は見られます。
またこの分野は、送料を考慮した単価の低い日用品のまとめ買いニーズや、消耗品のサブスクリプション利用、クイックコマース(ECを介した即時配達サービス)の利用拡大など、ECと非常に相性の良い特徴があります。
一方、家具、インテリアについても、実店舗の成約なく豊富なラインナップを取り揃えられる点でECとの相性が良く、今後もEC市場規模は拡大すると考えられます。
「自動車、自動二輪車、パーツ等」分野のEC化率は4.16%と7分野中最も低い水準ですが、伸び率は+0.52ポイントと上位に入りました。ただし、2023年は前年比-0.32%であったことからも、EC化率が進みにくい分野と考えられます。
この分野は高額商品が多く、実際にモノを見て購入したいというニーズが強いこと、パーツの取り付けには専門知識が求められることなどが、EC化が進みにくい要因と言えるでしょう。
ただし、2024年には中古車を通販で購入する「バディカダイレクト」がスタートするなど、EC化が進まない要因をカバーできるサービスが登場しており、ECニーズがないわけではありません。工夫次第でビジネスを拡大できる可能性を秘めています。
「化粧品、医薬品」は化粧品全般や医薬品、及び美容・健康関連器具で構成される分野です。2024年のEC化率は8.82%で伸び率は+0.25ポイント、市場規模は1兆150億円(前年比+4.54%)と堅調です。
この分野は、百貨店やドラッグストア、コンビニなどの実店舗が充実しており、カウンセリングなどの対面販売が適している商品が多いことから、EC化率は低い水準にあります。
しかし、コロナ禍で店頭販売が厳しくなった時期に、Web広告やバーチャルメイクアップツール、ライブコマースなどの手法でECに注力した結果、EC市場が拡大しました。コロナ禍以降も、行動制限解除によるメイクアップ用品需要の拡大、近年のメンズ美容の定着などを要因に、EC市場は堅調に推移しています。
また、医薬品については2020年のオンライン服薬指導の解禁、2023年の電子処方箋のスタートなどのオンライン化整備の加速により、市場拡大が期待されています。ただし、2025年2月の薬機法改正により若年者に対する一部の医薬品のインターネット販売は不可となっています。そのため、医薬品分野については今度の動向を注視する必要があるでしょう。
「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」分野のEC化率は43.03%と高い水準ですが、2024の伸び率は+0.15と7分野で最も緩やかでした。市場規模は2兆7,443億円で、伸び率自体は低いものの、市場規模、EC化率は物販分野の中でもここ数年上位を占めています。
2024年は円安や高騰するコストを背景に価格が上昇する一方、消費者の買い控え傾向も見られましたが、省エネ製品や高価格帯の美容家電のニーズは衰えず、結果として市場規模拡大につながりました。
この分場は事前の調査で商品の特徴が理解しやすく、ECとの相性がよい分野とされています。とはいえ、高額であることから実際に商品をみたいというニーズもあり、Amazon等の大手ECプラットフォームと大手家電量販店・通販事業者との対立構造となっているのが特徴です。
また、市場拡大とともに実店舗の新たな役割が模索されてきたという点も特徴に挙げられます。たとえば、実店舗と電子棚の価格をリアルタイムで連動させる、店内での商品撮影・SNS投稿の解禁などによりECに誘導する取り組みを行う企業も現れています。
さらに、近年は家電ECにおけるリユース・リサイクル市場の拡大傾向もあり、今度も市場規模の拡大が期待されています。
BtoB(企業間取引)のEC市場も拡大が続いています。2024年のBtoB-EC市場規模は514兆4,069億円に達し、前年比+10.6%と大幅に拡大しました。「その他」分野を除くEC化率は、前年比+3.1ポイントの43.1%となり、4割を突破しました。
BtoB-EC市場規模の推移
BtoB-ECの市場規模は、コロナ禍で落ち込んだ2020年を底に回復傾向が続いています。2024年はインバウンド増加による外食・ホテル需要の拡大、原材料費高騰による価格の引き上げといったことを要因に市場規模が拡大し、それに伴いEC化率も伸びていると考えられます。
BtoBの業種別EC化率、およびEC市場規模の推移は以下のとおりです。
BtoB-EC市場規模の業種別内訳
EC化率が高いのは、製造業の輸送用機械(88.6%)、次いで食品(81.3%)、電気・情報関連機器(76.6%)の順となっています。これら上記3業種は、EC化率の伸び率も高いのが特徴です。
ここまで、経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査報告書」を元に、BtoC、BtoBそれぞれの市場規模とEC化率、EC化の現状について解説してきました。
コロナ禍の拡大傾向が落ち着きつつも、市場規模、EC化率ともに緩やかな上昇傾向が続いています。ただし、分野によってEC化率の現状は大きく異なります。EC化率が高い分野は競争の激化や価格競争の傾向がみられますが、伸び率が高い分野は新たな需要の顕在化やビジネスモデルの変革が起きている可能性を秘めています。
ビジネス戦略を立てる際には、EC化率の「現状の高さ」だけでなく、「伸び率」から読み取れる市場の変化のスピードと方向性を深く分析することが、成功への鍵となるでしょう。