まずは、日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模をみていきましょう。
2024年の市場規模は、26兆1,225億円となり、2023年の24兆8,435億円から1兆2,790億円増(増加率+5.1%)です。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で 2020 年に「巣ごもり需要」として消費者の間で EC の利用が急激に拡大したのち、スマホの普及が一段落したことや、消費者の実店舗回帰の機運が高まるなどしたことで、物販における EC 利用の伸びは年々鈍化してきています。
とはいえ、2021年で前年比+7.35%、2022年+9.91%、2023年+9.23%、2024年+5.1%と、市場規模は拡大しており、依然として上昇傾向は続くと見られています。
BtoC-EC 市場規模の経年推移
(市場規模の単位:億円)
グラフで分かる通りBtoC-EC 市場規模は、物販系分野・サービス分野・デジタル分野の3つで構成されています。それぞれの分野別市場規模の推移は以下のとおりです。以降では分野別に詳しくみていきましょう。
| 2023年 | 2024年 | 増減率 | |
| A.物販系分野 | 14兆6,760億円(EC化率9.38%) | 15兆2,194億円(EC化率9.78%) | 3.70% |
| B.サービス系分野 | 7兆5,169億円 | 8兆2,256億円 | 9.43% |
| C.デジタル系分野 | 2兆6,506億円 | 2兆6,776億円 | 1.02% |
BtoC-ECの市場規模及び各分野の増減率
2024年の物販系分野の市場規模は、前年から5,434億円増加の15兆2,194億円(前年比+3.70%)となっています。また、全ての取引に対するEC取引の割合を示すEC化率は9.78%(前年比+0.40%)となり、市場規模、EC化率とも上昇傾向にあります。
物販系分野の BtoC-EC 市場規模及び EC 化率の経年推移
(市場規模の単位:億円)
物販系分野の市場規模における業種別の内訳は以下のとおりです。
物販系分野内での各カテゴリーの構成比率
(市場規模の単位:億円)
もっとも市場規模が増加したのは「食品、飲料、酒類」(3兆1,163億円/前年比+6.36%)です。反対に、「書籍、映像・音楽ソフト」は、前年に対してわずかに縮小傾向にあります。それ以外のカテゴリは数値に差はあるものの、市場規模は増加傾向です。
また、市場規模の上位である「食品、飲料、酒類」、「生活家電、AV 機器、PC、周辺機器等」、「衣類・服装雑貨等」、「生活雑貨、家具、インテリア」の4カテゴリで物販系分野の市場規模の約74%を占めています。
サービス系分野のBtoC-ECの市場規模は前年の7兆5,169億円から7,087億円増加の8兆2,256億円(前年比+9.43%)となりました。昨年に比べると伸びが鈍化しているとはいえ、引き続き3分野のなかでもっとも増加率が高く、市場規模の拡大に大きく寄与していることがわかります。
サービス系分野の業種別の市場規模は以下のとおりです。
サービス系分野の BtoC-EC の市場規模(▲は減)
サービス系分野で市場規模がもっとも大きかったのは、昨年に引き続き旅行サービスとなり、前年比+10.32%の3兆5,249億円です。増加率では金融サービスが前年比+16.59%と2023年の増加率をさらに上回る成長を見せています。
旅行サービスのカテゴリは、旅行代理店への申込や航空機利用、バス利用、ホテルや旅館の宿泊費で構成されます(ビジネスユースである出張は除外)。国内旅行については2023年にコロナ禍前の約9割まで回復し、2024年もその規模を維持したとみられます。海外旅行については着実な回復を見せつつも、円安や物価上昇の影響によりコロナ禍前の水準には達していません。
オンライン旅行市場をみてみると、スマホ普及・コロナ禍の影響により旅行事業者によるオンラインサービスの提供は当たり前となり、予約経路もオンラインが主流になりつつあります。そんな中、対面サービスの価値を見つめ直す動きが現れ、対面サービスとオンラインサービスを適切に使い分ける例も広まっています。また、今後はSNSやAIを活用した先進的サービスの提供が、市場獲得競争の争点となるでしょう。
金融サービスは、株式市場の好調を背景にオンライン取引の活性化などにより昨年を上回り大きく増加を見せています。
飲食サービス及びチケット販売は、2020年~2021年にかけてコロナ禍の影響により大きく市場規模が落ち込みましたが、2023年にはコロナ禍前の2019年を上回り回復を見せ、2024年も堅調に増加しました。
一方、フードデリバリーサービスはコロナ禍脱却後の実店舗回帰の影響により、市場規模が減少に転じています。
デジタル系分野の市場規模は、前年の2兆6,506億円から270億円増加の2兆6,776億円(前年比+1.02%)です。
デジタル系分野の業種別の市場規模は以下のとおりです。
デジタル系分野の BtoC-EC 市場規模(▲は減)
市場規模がもっとも大きいのはオンラインゲームで1兆2,553億円ですが、前年比-0.58%となり、2022年から前年比マイナスが続いています。一方、市場が堅調に拡大しているのは有料音楽配信(前年比+5.84%)、有料動画配信(前年比+3.31%)です。
有料音楽配信は、月額等一定期間の定額制で好きなだけ楽しめるサブスクリプション型配信サービスが市場拡大に寄与していると考えられます。日本レコード協会による2024年年間音楽配信売り上げ実績は、サブスクリプションと広告収入をあわせたストリーミングの売上が前年107%の1,132億円と成長を続けており、音楽配信年間売上全体におけるシェアは91.8%まで拡大しています。一方、ダウンロードは前年の93%と縮小傾向です。
有料動画配信については伸び率がやや鈍化していますが、有料音楽同様にサブスクリプションサービスの拡大が市場拡大の後押しとなり、市場は堅調に増加しています。
巣ごもり需要により2020年、2021年と市場が大きく拡大した電子出版は、2022年、2023年の伸び率は鈍化、続く2024年の市場規模も6,722億円(前年比+0.58%)のほぼ横ばいです。しかし、市場規模は前年に引き続き最高記録を更新しています。
電子出版の市場をけん引する電子コミックは、電子書籍市場においてシェア9割に達しました。一方、電子コミックを提供するサービスやアプリが多数リリースされており飽和状態とも言え、ユーザー獲得が困難な状況になりつつあります。そのようななか、独占・選考配信やオリジナル作品などのコンテンツの強化や海外向け展開、NFTの付与など、付加価値を高めて差別化を図る事例も現れています。
EC市場拡大にともない、宅配便取扱個数も増加しています。国土交通省の発表する宅配便取扱個数の推移は以下のとおりです。
年度別宅配便取扱個数の推移 (単位:億個)
2023年度は2022年度とほぼ横ばいの上昇とはいえ、2009年度の31億3,700万個に比較すると上昇率は約60%となっています。
一方、宅配大手3社の宅配便取扱個数の推移は以下のとおりです。
宅配大手 3 社の宅配便取扱個数 (単位:億個)
ECでの購入に対してセキュリティ面の不安を抱くユーザーは多いものです。ユーザーが安心して取引できるように、万全の情報セキュリティ対策を講じることは欠かせません。
以下グラフは、インターネット利用に対して「不安を感じる」「どちらかといえば不安を感じる」の回答の内容を示したものです。
インターネット利用における不安の内容(複数回答)
BtoC-EC(物販)におけるスマートフォン経由の市場規模
スマートフォン経由の物販の BtoC-EC市場規模の推移
LINE、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は各年代層での利用が広がっています。以下は、総務省の「令和6年通信利用動向調査」によるSNS利用状況のグラフです。
SNSの利用状況(出典:総務省「令和6年通信利用動向調査」)
SNSの利用率は全体で81.9%(前年比+1.1%)となり、もっとも利用率が高いのが20~29歳の95.0%です。しかし、70~79歳66.0%、80歳以上51.3%、6~12歳でも40.9%と幅広い年齢層で利用されていることが分かります。
ユーザーが買い物する際の情報源としてSNSの活用は定着化しており、実際、InstagramやTikTokではEC機能を備えているなど、ECとの連携が進んでいます。今後もSNSの利用率は高水準で推移すると考えており、EC事業の展開にはSNSを活かしたマーケティングが欠かせないでしょう。
ただし、SNSはサービスによって特徴や利用者層が大きく異なります。視覚的効果を狙いやすいInstagramや拡散力の強いXなど、各SNSの特徴などを理解しターゲットや商品に合わせてECでの戦略を立てていくようにしましょう。
CtoC-EC 推定市場規模
2024年のCtoC-EC市場規模は、2023年の2兆4,817億円から2兆5,269億円(前年比+1.82%)と拡大を続けています。
CtoC-EC(個人間の電子商取引)はフリマアプリとネットオークションの売上をもとに推計され、市場規模の主導となるのはフリマアプリ市場です。フリマアプリは2012年ごろから登場し、市場規模が急激に拡大、今度も市場の拡大が見込まれています。
ただし、CtoC取引は単純な個人間にとどまらず、実際にはBtoB、BtoCの取引も含まれています。上記市場規模にもそれらが含まれている点には注意しましょう。
CtoC-ECに関連するトピックをみていきましょう。
CtoC-EC市場は中古品販売、いわゆるリユース市場の一形態ともいえるため、リユース市場の現状を押さえておくことも大切です。
国内リユース市場には、CtoC-EC市場や実店舗及びECのBtoC 中古品売買市場などが含まれ、その市場規模は2024年には3.1兆円となり、さらに2030年には4兆円規模に達すると見込まれています。
リユース市場は、コロナ禍を契機として家の整理に伴う出品が増加した一方、実店舗の需要が減少したことから2022年以降の伸び率はやや鈍化しているものの、市場拡大が続いています。その要因としては、2022年から2023年にかけては店舗需要の回復やインバンド需要の増加、2023年から2024年にかけては節約志向や環境課題に対する個人の意識の高まり、インバンド需要によるブランド品市場の拡大などが挙げられます。また、Z世代を中心に、リユース品に対する抵抗感の薄れや再販価値を意識した購買行動の増加なども加わり、今後も国内リユース市場は拡大すると見られます。
二次流通市場は、一次流通によって製造・販売された製品が消費者によって流入することによって市場が形成されます。一方、一次流通事業者側から見れば二次流通市場は一次流通を侵食する敵対関係のように見られることもあるのです。
しかし、近年は二次流通を入り口にブランドの認知が広まる、二次流通のために新品が購入されるといった新たな需要が生まれるといった考えから、一次流通事業者と二次流通事業者との連携の動きが見られます。
たとえば、二次流通事業者と一次流通事業者が利用者のデータを連携し、一次流通事業者は二次流通されることを前提に値付けや販売戦略を立てる、二次流通事業者は一次流通事業者の商品カタログなどをもとに出品時の商品情報入力を省けるようにし出品を促すといったケースです。
このような一次流通事業者と二次流通事業者の連携は拡大が予測され、双方の市場規模の拡大が期待されています。
2024年のBtoB-EC市場規模は、514兆4,069億円(前年比+10.6%)です。また、「その他」業種を除くEC化率は前年から3.1ポイント増の43.1%となっています。
BtoB-EC 市場規模の推移
財務省の法人企業統計によると、多くの業種でBtoBの商取引市場規模が拡大しており、結果としてBtoB-EC市場規模の拡大につながっています。
BtoB-ECに関連するトピックをみていきましょう。
2024年1月のINSネットサービス終了にともない、同サービスをインフラとするEDIの仕組みはインターネットEDIへの移行が進んでいます。
全国の固定電話をつなぐNTTの固定電話網(PSTN)は契約数の減少や設備が2025年に維持限界を迎えるといった理由からIP網への移行が進められ、2024年12月に全ての移行が完了したことが発表されています。各事業においてはINSネットの代替として、新しいデジタル通信モードや通信プロトコルの導入、業務プロセスや情報の送受信方法の見直しが求められます。
2023年10月からスタートした適格請求書等保存方式(インボイス制度)への課税事業者側の対応が進んでいます。
2024年9月に公表された調査によると8割近くの企業で対応済みという状況であり、そのうちシステムで対応しているのは全体の49.6%、システムを利用せずに対応しているのが28.6%です。一方、7割以上の経理担当者が業務負担の増加などに課題を感じています。業務負担の増加に対応するために、各企業でシステムの導入や業務フローの改善が期待されるでしょう。
越境ECとは、国境を超えたEC取引のことです。たとえば、海外のECサイトから商品を購入する、反対に日本や相手国のECサイトで海外向けに商品を販売するといった方法があります。
以下は、予測を含む世界のBtoC-EC市場規模です。
世界のBtoC-EC 市場規模(単位:兆 US ドル)
世界のBtoC-EC市場規模は、2024年で6.09兆米ドル、EC化率は20.1%と推計されており、2028年には8.09兆米ドル(EC化率22.9%)まで上昇すると予測されています。国別のEC市場シェア率は以下のとおりです。
2024年国別 EC 市場シェア
中国が50.4%と大半を占め、次いで米国(19.6%)、英国(3.6%)となっています。日本も4位につけていますがシェア率は2.8%にとどまり、中国や米国には遠く及びません。反面、中国や米国などの大きな市場規模のシェアを取りにいくことでビジネスチャンスを広げる可能性があると言えます。
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世界の越境EC市場は、2024年時点で1.01兆米ドルと推計され、2034年には6.72兆米ドルまで拡大すると予測されています。2025年から2034年の平均成長率は約23.1%と推計されており、市場規模の拡大が期待されているのです。
越境ECが拡大する背景として、消費者目線では、越境ECの認知度向上や自国にない商品や限定品への取得欲求、自国より安価で信頼性の高い商品の存在、決済手段の多様化などが挙げられます。事業者目線で見れば、ターゲットを拡大しようと積極的にマーケティングを行う事業者の増加や物流レベルの向上、AIを活用した自動翻訳といったシステムの普及などが挙げられるでしょう。
越境ECは国を超えてグローバルに展開できるので市場規模が格段に広がります。人口減少により市場規模が縮小する恐れのある日本だけでなく、海外も視野に入れたEC運営を行うことで、ビジネスチャンスが広がる可能性があると言えます。
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ここまで、経済産業省による令和6年度 電子商取引に関する市場調査報告書をもとに、BtoC、CtoC、BtoBのEC市場規模の現状やポイントなどをお伝えしました。コロナ禍を機に急拡大したEC市場は、2022年以降上昇が緩やかになりつつも2024年も堅調に拡大しています。
すでにECに取り組んでいる方やこれから取り組んでいきたいと考えている方は、本記事を今後のEC運営の参考にしてください。