顧客満足度(CS)とは、Customer Satisfaction(カスタマー・サティスファクション)の略で、ユーザーが提供された商品やサービスに対して、どれだけ満足しているかを表す指標です。顧客を満足させることができれば、リピート購入につながり売上や利益が拡大します。人の気持ちである“満足”をどう計測すればいいのでしょうか?顧客満足度の調査手法とデータの活用方法について、解説していきます。
どういった体験をすると、人は満足を感じるのでしょうか。
結論から言えば、人は「期待値より高い体験を得る」ことで満足を感じます。購入する前に想像していた価値、つまり「この商品を購入すれば、こんな体験が得られる」といった想定と、購入・使用してみた実際の体験との差が「顧客満足度」となるのです。
ちなみに、似た用語として、顧客満足度から発展した「顧客ロイヤルティ」があります。
顧客ロイヤルティは1990年代に誕生・普及した概念で、単なる満足を超えた、企業に対して顧客が抱く「愛着」や「忠誠心」を測る指標です。商品やサービスの差別化が難しい今、既存顧客との長期的な関係を続けていくことが重要となっており、その関係性の強さを表す考え方です。
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顧客ロイヤルティについて、より詳しく知りたい方は以下のコラムをご覧ください。
顧客ロイヤルティとは?ロイヤリティを高める方法や向上した事例を解説
では、どうやって顧客の期待や体験といった、人によって感じ方が異なる要素を計測するのでしょうか?顧客満足度を調査する代表的な手法には、以下のようなものがあります。
もっとも一般的な調査手法です。商品やサービスの購入者・利用者に所定の設問に回答してもらいます。店頭や街頭、電話、郵送、メール、SNSやサイト上のアンケートフォームといった方法があります。顧客満足度の測定には、主に以下の2種類の調査がよく使われています。
顧客満足度を他社と比較し、多面的に分析できる調査です。「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「顧客満足」「推奨意向」「ロイヤルティ」の6指標で分析します。
その商品やサービスを家族や友人に勧めたいかどうか、つまり推奨意向の度合いを定量化する調査です。「この商品・サービスを勧める可能性を11段階で答えてください」という質問の回答から、顧客を「批判者」「中立者」「推奨者」の3つに分類し、分析します。
上記の2つの調査については次章で詳しく説明します。
※1 定量調査とは数値化できるデータを収集して分析することで、統計的な調査ができるリサーチ方法です。一方、被験者の発言や行動など、数値化できないデータを収集するリサーチ方法を定性調査と言います。
対面や電話などにより、対話形式で行う定性調査です。
「この商品のどこに満足したのか?」「使っていて、どこが不満だったのか?」というように、実際に話を聞くことで、アンケートだけでは掘り下げることが難しい定性的な情報を聞き出します。会話の展開に合わせて、気になったポイントをより詳しく聞き出すことでき、臨機応変な対応が可能です。対面の場合には、表情や身振り手振りなどから、アンケートではわからない心理状況が推し測れることもあります。 複数の人を集めて行うグループインタビュー、ひとりに深くじっくり聞くデプスインタビューといった手法があります。人数や回数に制限があり、結果の定量化が難しいため、多くは課題の発見、仮説の確認、データの裏付けなどのために、定量調査と合わせて行われます。
店舗のような実際の商品・サービスを提供する現場を訪れて、顧客とのやりとりや行動を観察して評価をする調査です。一般顧客に紛れた調査員が、売り場の様子や接客態度などを直接判断することで、リアルな顧客満足度を推測することができます。ただしこれも対象数が限られ、結果の定量化や一般化が難しいため、定量調査と合わせて行うことの多い調査です。
顧客満足を数値データとして計測する調査にはさまざまなものがありますが、広く使われている方法のひとつが顧客満足度指数です。また最近では、顧客ロイヤルティの視点を組み入れた顧客推奨度を測る調査も注目されています。この2つの調査方法について詳しく見ていきましょう。
日本版顧客満足度指数とも呼ばれるJCSI(Japanese Customer Satisfaction Index)は、海外の顧客満足度を測る指標のCSIを日本版にカスタマイズしたものです。⽣産性を測る指標のひとつとして、国のプロジェクトによって開発された調査方法で、10年ほど前から広く活用されています。
この調査は単なる顧客満足度を見るのでなく、満足度を上下させている理由や利用者のその後の行動について、分析と比較をするものです。公益財団法人 日本生産性本部が、業種を横断して同じ設問で調査を行い、毎年、業界・業種ごとの顧客満足度ランキングを発表しています。業種を横断した比較・分析ができる点が大きな特徴と言えるでしょう。毎年継続的に実施されるため、データの経年比較も可能です。企業全体だけでなくサービスごとの顧客満足度を測ることもでき、定期調査対象以外の企業も要望に応じて調査しています。
JCSIでは、「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「顧客満足」「推奨意向」「ロイヤルティ」の6つの観点から質問をします。10段階、もしくは7段階で評価された得点を合計し、100点満点で指数化します。
「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」からは顧客が感じる満足・不満足の理由が、「推奨意向」「ロイヤルティ」からは顧客の後々の行動がわかるなど、「顧客満足」を多面的に比較・分析します。
JCSI調査の結果は、業界内での相対的なポジションの確認や、自社の強み・弱みの客観的な分析のほか、新しい施策の有効性やサービスの品質を測る指標として活用されています。顧客満足度を向上させる活動のベースとなるだけでなく、会社の現状を顧客の視点から把握して課題を抽出し、業務改善をするための情報として、企業の経営改善や経営目標の策定にも役立てられています。
顧客推奨度調査は、その商品やサービスを家族・友人に勧めたいかどうか、つまり推奨意向の度合いを定量化する調査です。
何かを推奨(口コミ)するという行動には、推奨した相手(家族、友人など)への責任が伴います。そのため多くの人は本当に勧めたいものしか推奨しません。「推奨したいかどうか」を調べる顧客推奨度調査が、一般的な顧客満足度調査に比べ、業績との連動性が高いとされているのはこのためです。この調査で高得点を付けた顧客は、実際にリピート購入や他者への推奨をすることが多く、現状の満足度を聞く調査よりも未来の収益性につながる可能性も高いと言われています。また、質問内容がシンプルで回答者が答えやすく、結果の計測が簡単な点もメリットです。
顧客に「この商品(企業・サービス・ブランド)を家族・友人に勧める可能性はどれぐらいあるか?」という質問を行い、勧める可能性を0~10の11段階で回答してもらいます。11段階のうち何点と評価したかによって、顧客を次の3つに分類します。
回答者全体の推奨者の割合(%)から、批判者の割合(%)を引いた数値が「推奨意向度」となります。例えば、ある製品において推奨者(9~10をつけた人)の割合が40%で、批判者(0~6をつけた人)の割合が20%の場合、40-20=20なので、推奨意向度は20となります。
「推奨者が多い」=「その商品を愛用し、かつ周りに勧める人が多い可能性が高い」ということで、将来的な売上向上が期待できます。逆に批判者が多い場合は、周りにネガティブな情報を広める可能性が高く、今後の売上減少の要因になり得ます。
顧客推奨度調査は大きく2つの種類に分けられ、下記のように活用されています。
リレーション調査
顧客が企業や商品・サービスを「総合的に」どう評価をしているかを調べ、事業運営や経営の指標として活用します。調査の頻度は年に1~2回程度です。
トランザクション調査
商品・サービスの「顧客接点ごと」に推奨度を計測する調査です。商品購入時やWEBサイトへのアクセス、店舗への来店時など、それぞれの接点で顧客体験があった直後に調査を行います。目的は、一つひとつの接点の課題や改善点を明確にすることです。年間を通じて定点的に行うこともあれば、必要に応じてその都度実施することもあります。
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アンケートの設問設計に関する詳しい解説は下記でご覧いただけます。
アンケートの作り方~上手な設問設計のポイントを丁寧に解説
では、可視化された顧客満足度をどう実際の施策につなげればいいのでしょうか?大切なことは「満足度が高い」「低い」という評価自体ではなく、調査結果をしっかりと分析し、そこから商品やサービス、事業の課題を見つけ出すことです。そして課題を解決する改善策を立案、実行することで、顧客満足度を上げていきます。
次に顧客満足度調査の結果をもとに、課題解決に成功した例を紹介しましょう。
ある大手保険会社では、店舗当たりの収益を増やすためには顧客満足度を向上させることが必要と考え、顧客推奨度調査を実施しました。その結果、顧客の満足度を左右する要因のうち優先度が高いのは、担当者が「自分の話をよく聞いてくれるか否か」だということがわかってきました。そこで顧客のアンケートに「担当者の傾聴」を聞く項目を入れ、傾聴の評価が高い担当者を表彰するようにしたのです。さらに顧客推奨度の評価をリアルタイムで集計、確認できるシステムを導入した結果、顧客推奨度は8%向上し、新規顧客獲得数、既存の顧客からの紹介件数も大幅に増加。解約率もじわじわと減少したといいます。
オンライン旅行予約サービスを展開する楽天トラベルでは、ブランド全体についての顧客推奨度を測るリレーション調査を四半期に一度行っているほか、個々のサービスのパフォーマンスを知るために、サービスごとのトランザクション調査を毎月実施しています。この取り組みのなかで、あるコメントから「キャンセルに関する情報や予約の変更がわかりづらい」という課題を見つけ、予約完了メールの内容を見直しました。
また、2018年には頻発する災害に関する問い合わせが急増。その時期の調査からカスタマーサービスの対応スピードに課題があることがわかり、チャットサポートの導入により対応スピードを加速させることができました。現在では多くの社員が、自分が担当するサービスに関わる推奨度調査を定期的に確認するようになり、顧客の声に基づいてサービスを改善しようとする強い意識が育っていると言います。
これらの事例のように、顧客満足度調査を通して「今どんな課題を抱えているのか」を明らかにすることがとても重要です。顧客の満足度を下げている要因を発見できれば、そこから業務のシステムや評価制度を改善することができ、最終的には利益の拡大につなげることができるのです。
顧客満足度を客観的に計測することは、企業にとって非常に重要です。現在よく使われている調査には、「日本版顧客満足度指数(JCSI)」と「顧客推奨度調査」がありますが、こういった調査の特性を理解し活用して、今の課題を発見することが、顧客満足度を高めて売上アップにつながる道を開きます。まずは現状をしっかり把握することから、マーケティングをスタートさせましょう。
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