インストアプロモーション(in-store promotion)は、「店舗内で行われるすべての販売促進活動」の総称です。来店した顧客に対して直接アプローチし、「買おうか迷っている顧客の背中を押す」「予定になかった商品のついで買い(衝動買い)を促す」ことで、最終的な購買行動へ結びつけることを目的としています。
インストアプロモーションは、下図のように、売り場の販売促進に関する戦略である「インストアマーケティング」のなかの取り組み(インストアマーチャンダイジング)のひとつとして位置づけられます。その具体的な手法には、POPやポスターなどの印刷物の掲示、スタッフを配置して行うサンプリング・実演販売といったさまざまなものがあります。
<インストアプロモーションの位置づけ>
インストアプロモーションの特徴のひとつは、すでに来店している顧客を対象としている点です。その店舗や商品、商品ジャンルに何らかの興味を持って訪れた消費者に対する、効率の良いプロモーションです。
そして、もうひとつの大きな強みは、目の前にある商品をその場でアピールできるという点です。宣伝をしているその場で、商品を手に取って見てもらえるために、売上に直結する可能性が高いのです。
販促活動は、実施する場所によって、「インストアプロモーション」「アウトストアプロモーション」の大きく2つに分類されます。アウトストアプロモーションでお店に足を運んでもらい、インストアプロモーションで実際に商品を買ってもらうという、両者の連携が店舗ビジネスの売上最大化には不可欠です。
インストアプロモーションはインストアマーケティングのなかでも、特に重視されている手法です。その理由を解説します。
現代は、インターネットを使って、いつでもどんなものでも購入できる時代です。また、市場には商品があふれ、モノの価値だけではなかなか他社と差別化することができません。
そうしたなかで、消費者の価値観はモノよりコト(体験)へと向かっているといわれています。買い物にもエンターテインメント性を求める傾向が強まり、各メーカーも実際に商品に触れられる「体験の価値」を重視するようになってきました。
商品が置かれたその場で、その良さをリアルに体験してもらえるインストアプロモーションは、インターネットでは提供できない体験価値を通して、自社商品の優位性を強くアピールできる方法として、あらためて注目されているのです。
消費者の買い物のシーンでは、予定になかった商品を衝動的に買う「非計画購買」の割合がかなり高いとされています。その比率は業態や商品ジャンルによって異なりますが、スーパー、コンビニの商品における非計画購買の実態を調べたマクロミルの調査(※)では、カップ麺、スナック菓子、総菜では非計画購買が6割を超えていました。
となると、店頭での販促活動が消費者の購買を左右する可能性はかなり高いと考えられます。それには、自社の商品をどう消費者の「自分ごと」として意識させるかがポイントとなります。思いがけない商品との出会いを演出し、予定外のニーズを掘り起こすことができるという意味でも、インストアプロモーションへの期待が高まっているのです。
※出典:https://diamond-rm.net/market/28771/
インストアプロモーションの手法には大きく「価格主導型」「非価格主導型」の2種類に分類されます。それぞれの具体的な手法を見ていきましょう。
商品の価格を下げる、あるいは実質的なお得感を出すことで、消費者の購買意欲を刺激する手法です。
値引き・特売(ディスカウント)
「本日限り30%OFF」など、価格そのものを下げてお得感をアピールします。最も分かりやすく、即効性の高い手法です。
バンドル販売(まとめ買い割引)
「1点なら300円、3点で800円」のように、複数まとめて購入することで安くなる仕組みです。客単価の向上に直結します。
増量パック
価格は据え置きのまま、内容量を「10%増量」などにしてお得感を演出します。競合商品からの乗り換えを促すのに有効です。
クーポン・キャッシュバック
次回の買い物で使えるクーポンを発行したり、購入後に一部返金したりする手法です。
リピート利用の促進につながります。
価格を下げるのではなく、商品の魅力やブランド価値、店舗での体験価値を伝えることで購買を促す手法です。利益率を維持しやすいメリットがあります。
POP
商品の特徴やおすすめの理由を、イラストや文字で伝える看板・カードです。定番の棚に設置するだけでなく、音声や動画が流れる「デジタルPOP(電子POP)」も普及しています。
陳列・ディスプレイの工夫
通路の突き当たり(エンド)や、レジ前のスペースに特設コーナーを作る手法です。顧客の視線を集めやすく、新商品や季節商品の訴求に適しています。
実演販売・サンプリング(試食・試用)
実際に食べてみたり、使ってみたりする機会を提供します。食品や化粧品など、五感で試すことで納得感が高まる商品に効果的です。
ノベルティ(おまけ)の配布
「対象商品を購入すると、限定グッズをプレゼント」といった特典を付ける手法です。ファン層の購買欲を刺激します。
インストアプロモーションには多くのメリットがある反面、注意すべきデメリットもあります。
購買に直結しやすい(即効性がある)
すでに「買い物をしよう」と思って来店している顧客が対象であるため、アプローチが直接売上に繋がりやすいのが最大のメリットです。
衝動買いを誘発できる
顧客が買う予定がなかったものでも、魅力的なPOPや実演販売を見ることで、「ついでに買っておこう」という気持ちを起こさせることができます。
ブランドのファンを育成できる
非価格主導型のプロモーションで商品のこだわりやストーリーを伝えることで、価格の安さだけではない「根強いファン(リピーター)」を増やすことができます。
過度な値引きはブランドイメージを損なう
価格主導型のプロモーションを頻繁に行うと、「安売りのお店」「定価で買うともったいない」という印象を持たれ、ブランド価値や利益率が低下する恐れがあります。
店舗スタッフの負担が増える
大がかりなディスプレイの設営や、試食販売の運営、クーポンの処理などは、現場のスタッフに負荷をかけます。
かつてコロナ禍の時期には、「非接触」や「滞在時間の短縮」が重視され、試食販売の制限や混雑を下げる施策が主流となりました。しかし現在では消費者の店舗に対する期待が変化し、「リアル店舗だからこそ得られる体験価値の提供」と「デジタル技術の融合(DX・OMO)」が重要視されています。
ここでは、今押さえておくべき3つの最新トレンドを解説します。
一つ目はスマートフォンアプリと実店舗を連動させたプロモーションです。 例えば、顧客が自宅で店舗の公式アプリからクーポンを獲得し、来店時に店内のビーコン(位置情報発信器)と連動して「今、目の前にある棚のおすすめ情報」がスマホに届く、といった仕組みが考えられます。ネットとリアルの境界線をなくし、シームレスな顧客体験(CX)を提供することが求められています。
近年、特に注目を集めているのが「リテールメディア」です。これは、小売店が持つ「実店舗のスペース」や「購買データ」をひとつの広告媒体として活用する仕組みです。
店内に設置された大型の「デジタルサイネージ(電子看板)」で、時間帯や来店客層に合わせた動画広告を放映したり、アプリを通じてピンポイントな広告を配信したりします。これにより、店舗は新たな広告収入を得つつ、顧客へ最適な情報を提供できるようになります。
レジのPOSデータだけでなく、AIカメラによる店内の「顧客動線分析」や「棚の注視度分析」の導入が進んでいます。 「どのルートを通った人が、どのPOPを何秒見て、最終的にカゴに入れたのか」をデータ化することで、経験や感覚だけに頼らない、科学的で効果的な棚割りやプロモーション設計が可能となります。
効果的なインストアプロモーションを実施するためには、計画から改善までの「PDCAサイクル」を正確に回すことが不可欠です。具体的なステップと、それぞれのポイントを詳しく解説します。
【PLAN(計画)】目的・ターゲット設定とKPIを明確化
【DO(実行)】クリエイティブを制作し店舗スタッフと連携する
【CHECK(評価)】データを分析し課題を抽出する
【ACTION(改善)】分析結果を踏まえて次回施策へ反映する
まず「誰に対して、何を達成するためのプロモーションか」を明確にします。目的が曖昧なまま販促を始めると、費用対効果の検証ができません。
例)
新規顧客の獲得・認知拡大が目的の場合
施策:通り沿いやメイン通路でのサンプリング、目立つエンド陳列
目標数値(KPI):配付数、トライアル商品の購買率
客単価の向上・ついで買いが目的の場合
施策:クロスマーチャンダイジング(例:精肉コーナー横に焼肉のタレを設置)、まとめ買い割引(バンドル販売)
目標数値(KPI):併買い率、買上点数、平均客単価
企画が固まったら、POPやディスプレイ、デジタルサイネージ用動画などのクリエイティブを制作します。ここで最も重要なのが「店舗の現場スタッフとの連携」です。
どれほど優れた販促物や企画を本部が準備しても、現場のスタッフが理解し、適切に展開してくれなければ十分な効果は得られません。
「なぜこの施策を行うのか(目的)」を事前に共有する
設置しやすい形状のPOPを設計する
オペレーションの手間(補充・清掃・接客など)を考慮した設置計画を立てる
現場の負担を最小限に抑えつつ、販促意図がストレートに伝わる環境を整えることが成功の鍵となります。
施策の実施期間中および終了後は、集めたデータを分析して検証します。現代のインストアプロモーションでは、売上データだけでなく「顧客の動き」を可視化することが重要です。
POSデータ:売上高、販売数量、時間帯別売上、同時購入された商品(併買い傾向)
販促施策の反応:クーポンの利用率、アプリの開封数・表示数
店内データ:AIカメラやセンサーによる「立ち止まり率」「注視時間」「動線」
これらのデータを分析することで、「売上が伸びなかった原因は『認知されなかったから』なのか、『手に取られたが価格や説明で離脱されたから』なのか」といった詳細な課題が見えてきます。
検証結果をもとに、次回のプロモーションに向けた改善策(A/Bテストなど)を実施します。
成功事例の横展開:効果の高いPOPのデザインや陳列方法を、他店舗や別商品へ展開する。
失敗要因の解消:立ち止まり率は高いものの購入に至らなかった場合、キャッチコピーの変更や価格表記の工夫、または接客サポートの追加などを検討する。
このサイクルを継続的に回すことで、自社店舗における「勝ちパターン」を構築することができます。
インストアプロモーションで成果を上げ続けるための重要なポイントを3つ紹介します。
ネット通販で簡単に買い物ができる現代において、消費者がわざわざリアル店舗に足を運ぶのは「体験」や「発見」を求めているからです。「この商品が安い」という機能・価格訴求だけでなく、「この商品を使うことで、生活がどう豊かになるか」というストーリーを、POPやディスプレイ、デジタルサイネージを通して伝えることが重要です。
デジタルサイネージやスマホアプリは非常に強力ですが、温かみのある手書きのPOPや、スタッフによる実演販売が勝るケースも多々あります。ターゲット層(シニア層、若年層など)のライフスタイルや、商品の特性に合わせて、アナログとデジタルの最適な組み合わせを考えましょう。
特定の棚だけが盛り上がっていても、店舗全体の雰囲気やブランドイメージと乖離していては、顧客に違和感を与えてしまいます。店舗全体のコンセプトに基づいた、統一感のあるプロモーションデザインを心がけましょう。
ネットショッピングが全世代に浸透しても、店舗で現物を手に取りたい、新しい商品に出会いたいというニーズが消えることはないでしょう。インストアプロモーションは、そのような期待を持って店に足を運んでくれる消費者にアピールし、購買意欲を喚起する販売促進の手法です。しかしコロナ禍を経た現在、従来のやり方は見直され、IT活用を軸とした新しい手法が模索されています。買い物体験の価値を高めて顧客の心をつかむために、アイデアを出し合って、時代に合ったインストアプロモーションに挑戦していきましょう。
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