はじめて利用するECサイトで会員登録をするとき、SNSやGoogleアカウントの登録が選択できるのを見たことはありませんか? この機能を「ソーシャルログイン」と言います。ユーザーは、Webサイトごとに会員登録をする手間が省け、手軽にサイトが利用できるので、多くのECサイトが導入を進めています。この記事ではソーシャルログインとはどんなものか、ユーザーと提供側それぞれのメリットや危険性について解説します。
ソーシャルログインとは、ユーザーが日頃使っているSNSやGoogleのアカウントを利用して、ECサイトなどのWebサービスにログインできる機能です。
国内でソーシャルログインによく使われているアカウントは、LINE、Facebook、X(旧Twitter)、InstagramなどSNSのほか、Google、Yahoo! JAPAN、Amazon、楽天などがあります。
多くのECサイトや各種サービスサイトでは、初めて利用するユーザーに会員登録を求めてきますが、ユーザーにとっては、サービスごとに個々に登録をするのはとても面倒です。ソーシャルログインを使えば、会員登録の手間を省略することができ、ユーザーの利便性がアップします。また、サイトにとっては、アカウントの連携先が所持しているユーザーのデータが活用できるなど、双方にとってメリットがあります。
多くのソーシャルログインが、「OAuth(オーオース)」や「OpenID Connect(オープンアイディーコネクト)」という、アクセス権限を認可するプロトコル(※)を利用しています。
これらのプロトコルは、ユーザーの許可を得て、外部のWebサイトとSNSや検索サービスのシステムとの間でIDを連携させることを認めます。
外部のWebサイトは、ユーザーがログインする度にこの認証を得て、SNSや検索サービスからユーザーのID情報を取得します。その結果、LINEやYahoo! JAPANなどが持つID情報をログインやマーケティングに利用することが可能になるのです。
ユーザーのデータは厳重に守るべき情報のため、ID情報を取得する際のセキュリティは大変重要です。ソーシャルログインを実装するときには、SNSや検索サービス側が指定する手続きに従って、慎重に作業を進めるようにします。
※プロトコル マシンやソフトウェア同士のやりとりに関する取り決め
ECサイトの運用者にとって、ソーシャルログインを導入することは次のようなメリットがあります。
新規でECサイトに会員登録をする際に入力の手間が省けるため、フォームの記入を面倒に感じる利用者の脱落を防ぐことができます。また、既に持っているアカウントでログインできることから、個人情報を提供する抵抗感が薄れ、会員登録のハードルが下がります。その結果、新規会員の登録率が向上します。
ECサイトで商品を買おうとしたユーザーが、ログインや会員登録でつまずいて購入手続きをやめてしまうことがあります。ソーシャルログインがあれば、初めて訪問したECサイトでも会員登録やログインを簡略化でき、流れを止めてしまうリスクを減らせます。その結果、コンバージョン率が上がります。
久しぶりに訪れたECサイトのIDやパスワードを忘れてしまい、ログインを諦めたという経験は誰しもあることではないでしょうか? ソーシャルログインが使えれば、IDやパスワードの復旧が面倒で離脱するリピーターを逃さずにすみます。ログインをあきらめて離脱するリピーターを逃さずにすむため、アクティブユーザーを増やせます。また、パスワードの再発行やログイン方法に関する問い合わせを減らすこともできるのもメリットです。
一般的にECサイトの会員登録において、購入や配送に必要な情報以外の情報の取得は、ユーザーが離脱してしまう原因になるため避けた方がいいといわれています。しかしソーシャルログインでは、IDの連携元が持っている情報(ユーザーが許可したもの)を利用できる場合があります。ID連携を活用すると、連携元の情報を使ってメッセージ配信を行う、メンバー特典を付与するといったことも可能になります。
例えば、LINEアカウントで自社サイトにログインしたユーザーには、LINEが持っている趣味や好み、年齢・性別、購入履歴といったデータをもとに、その人に合ったメッセージを配信することができます。
またFacebookには「カスタムオーディエンス」機能があります。この機能はソーシャルログインで取得したFacebookのIDをFacebook広告の管理画面にインポートすることで、そのユーザーと類似した属性のユーザーに広告を配信できるというものです。
ではソーシャルログインを利用するユーザー側にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ユーザーは、いつも使っているIDとパスワードさえ分かっていれば、ECサイトやWebサービスごとに新たな設定をしなくてもよく、複数のID/パスワードを覚えておく必要もありません。
新規の会員登録の際にユーザーがソーシャルログインでの登録を選択すると、各アカウントにひもづいた氏名やメールアドレスなどの情報が登録フォームに自動的に入力されます。ユーザーは、少ない作業で会員登録を完了できます。
IDの連携元に登録されている情報は、主に、ユーザーID、氏名、性別、メールアドレス、誕生日、居住エリアといったものです。もちろん、オークションとしての利用者が多いYahoo!JAPANを連携元にした場合は登録情報に住所も含まれているなど、連携元によって情報は異なります。
IDとパスワードだけを使ったログインには、なりすましや不正利用のリスクがあります。ソーシャルログインではIDの連携元が提供する二段階認証を利用できるため、セキュリティを強化できます。二段階認証の例としては、なりすましを防ぐために、ユーザーのSMSに認証コードを送って入力させたり、指紋認証といった方法で、利用者本人のログインを確認できるようにしています。
一方で、導入を検討する際に考慮しておきたいデメリットもあります。
ソーシャルログインでは、IDの連携元となるサイトに登録されている情報しか利用できません。例えば本名ではなくハンドルネームでSNSに登録している場合や、Webサービスに住所や電話番号を登録していない場合には、氏名、住所、電話番号の情報はもちろん取得できません。会員登録の自動入力も一部のみになってしまいます。
IDの連携元となるSNSやWebサービスの仕様は変更されることがあります。ソーシャルログインを採用していると、連携元の仕様変更に合わせて継続的なメンテナンスが必要になります。変更の内容によっては、システムを大きく改修しなければならない場合もあります。
ソーシャルログインの実装を自社で行うためには、権限を認証するためのプロトコルやAPIに関する知識が必要不可欠です。専門知識のあるエンジニアがいない場合には、費用はかかりますが外部のリソースを活用しましょう。
日本では、どのようなアカウントがソーシャルログインによく利用されているのでしょうか?
株式会社フィードフォースがLINE、Yahoo! JAPAN、Facebook、X(旧Twitter)、Googleの5種類のアカウントについて行った調査(※)によると、2019年に最も多くソーシャルログインに利用されたアカウントはLINE(64.5% / 昨年比+8.4ポイント)で、2年連続のトップとなりました。続いてYahoo ! Japan 17.6%、Facebook 6.5%、Google6.3%、Twitter5.1%という順位になりました。
利用されるデバイスの割合では、モバイル(スマートフォン・タブレット)が93.1%、PCが6.9%と、圧倒的にモバイルが多いという結果が出ています。
(※)株式会社フィードフォースのサービス「ソーシャルPLUS」を導入したサイトを対象とし、過去1年間(2019年2月~2020年1月)のソーシャルログインでの利用状況を調査。総利用回数は5,429万回、ユーザー数1,402万人
ソーシャルログインの導入は、サイトの利用者と運用者のどちらにも多くのメリットがあります
利用者は、面倒な登録手続きを省くことができるうえに、たくさんのIDやパスワードを覚える必要がなく、より気軽にECサイトやWebサービスを利用できるようになります。ECサイト運用者にとっても、新規登録者やアクティブユーザーの増加が期待でき、取得した情報を販促に活用することも可能です。
ただし導入には専門的な技術が必要で、個人情報保護にも十分に注意しなくてはなりません。社内にリソースがない場合は、専門家に相談しながら検討することをお勧めします。
読み物
ソーシャルログインについて詳しくは、こちらの記事もご覧ください。
個人情報保護の流れで「ソーシャルログインによるID活用」がECサイトの成長を加速させる~喜多宏介氏・岡田風早氏【前編】
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