2019年末に始まり、経済に打撃を与えたコロナ禍。2021年も日本はコロナ禍の下にありましたが、その間のインターネット通販の市場はどうなっていたのでしょうか? この記事では、2022年8月に経済産業省が発表した「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」をもとに、EC市場の現状をBtoC、CtoC、BtoBといった対象別に解説します。
2021年の日本のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)の市場規模は20兆6,950億円。前年と比較して7.35%増加し、初めて20兆円を超えました。
実は、前年(2020年)のBtoC-ECの市場規模は19兆2,779億円で、前年比0.43%減。右肩上がりで伸びてきた市場規模が、コロナ禍の影響で初めてマイナスに転じました。外出自粛によりサービス系分野の市場が縮小したことが要因ですが、その一方で、巣ごもり需要により物販系分野とデジタル系分野の市場は拡大しました。
2021年のBtoC-ECは全体として拡大傾向になり、コロナ禍前の2019年に対しても6.89%増になりました。
2021年の物販系分野BtoC-ECの市場規模は、前年の12兆2,333億円から1兆532億円増加し、13兆2,865億円となりました。物販系の業種と市場規模は下記のグラフのような構成になっています。
コロナ禍のダメージを最も受けたのが、サービス系分野BtoC-ECです。サービス系は、感染防止対策として規制された旅行、イベントのチケット販売、飲食店予約などを含んでいるため、2019年には7兆1672億円あった市場が2020年には4兆5,832億円と36.05%も減少したのです。
2021年のサービス系の市場規模は4兆6,424億円。前年より592億円増えましたが、伸び率は1.29%と小幅にとどまっています。
飲食サービス(インターネットによる飲食店の予約サービス)の市場規模も、2021年は前年比マイナス17.36%。店舗予約が2年連続して低迷する一方で、2020年に推計が始まったフードデリバリーサービスの2021年の市場規模は4,794億円となり、前年比37.48%増に。店舗の不振を補うために参入した飲食店も多く、市場が拡大しています。
また、チケット販売はイベント規制の緩和が進んだことから、2021年は前年比67.01%と大きく回復しました。
2021年のデジタル系分野BtoC-ECの市場規模は、前年の2兆4,614億円から2兆7,661億円となり、伸長率は12.38%でした。デジタル系では、コロナ禍の巣ごもり需要の影響を受けて2020年に市場規模が大きく拡大し、2021年もその傾向は続いています。
また、デジタル系の約6割を占めるオンラインゲームも、前年比がマイナスだった2019年から一転、2020年、2021年と連続して7%台のプラスに。コロナ禍で対面のコミュニケーションが制限されるなか、オンラインゲームを通じたコミュニケーションが重視されたとも言われています。
CtoC-EC(個人間の電子商取引)は、フリマアプリとネットオークションの売上をもとに市場規模が推計されています。
コロナ禍の影響を強く受けた2020年のCtoC-EC市場は、1兆9,586億円となり前年比12.52%増と大幅に伸びました。続く2021年には2兆2,121億円と2兆円を超え、伸び率も12.90%とさらに大きくなっています。
しかし実際には、中古品を売ったお金で新品を購入するという消費者も多く、二次流通においてブランド認知が進むケースもあります。最近では、一次流通と二次流通の事業者間で、情報交換や決済システムの共有を行うといった協力関係を築く例も出ています。
CtoC-ECでは、偽ブランド品のような不適切な出品がたびたび問題になってきました。そこで、2021年4月には、デジタルプラットフォーム側の努力義務や出品の停止要請、情報開示請求権などについて定めた「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」が成立しています。
2021年のBtoB-EC(企業間の電子商取引)の市場規模は372兆7,073億円で、前年比11.3%増となりました。
ここでもコロナ禍の影響は大きく、2020年のBtoB-EC市場全体は前年の94.9%まで落ち込みました。しかし、2021年には挽回し、2019年比で5.6%の増加となりました。
このEDI用として多くの企業が使用してきたISDN回線が、2024年に廃止になります。そこで今、従来のEDIをインターネットEDIや一般的なECシステム、業界独自のEDI網などに切り替える動きが進んでいます。こうしたインフラ整備は、取引のあり方を見直し、新たなECへの取り組みを進める契機になると言われています。
最後に、今後の通販市場を考える際に留意したいポイントを3点挙げます。
スマートフォンでECを利用する人が急激に増加しています。2021年には、スマートフォン経由の物販系BtoC-ECの市場規模は6兆9,421億円と全体の52.2%を占めました。
サブスクリプションサービスはユーザーにとってお得感があり、手軽に始めやすい一方、市場拡大に伴い、契約に関するトラブルが増えています。
特に多いのが「無料体験」「無料トライアル」などの表示・広告を見て申し込んだユーザーが、解約は無料期間中に行わなくてはならないことに気づかず、自動的に有料プランに移行して料金を請求されるケースです。
こうしたトラブルを防止するため、2022年6月に施行された改正特定商取引法(※)では、Webサービスの最終確認画面に有料プランへの移行時期や解約に関する事項などの表示が義務付けられました。
この規制はサブスクリプションサービスだけでなく、すべての通販事業者が対象となっており、注意が必要です。
※一部の施行は2023年6月
AIや物流ロボットといった新しい技術も、今後のEC市場に大きな影響を与えると考えられています。
AIは、ECサイトのレコメンド機能の多くですでに活用されています。今後はさらに在庫管理、顧客対応といった業務の効率化を目的としたAIや、需要予測、広告の自動生成といった売上拡大を目的としたAIの導入が進むでしょう。
また、EC事業の課題のひとつである物流センターの人手不足や過重労働の解決策と言われているのが、物流ロボットです。荷物の積み下ろしやピッキングなどを自動化することで、物流業務の効率化や物流コストの低減につながるとして、期待が寄せられています。
2021年の通販市場規模を見ると、前年に受けたコロナ禍のマイナスの影響を脱する傾向が多くのジャンルで見られました。厳しい規制を受けて落ち込んだサービス系分野BtoC-ECも、わずかながら前年比でプラスとなりました。その一方で、巣ごもり需要で市場が急拡大したBtoC-ECの物販系分野やデジタル系分野、CtoC-ECでは、順調に成長が続いています。
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