EC化率とは、店頭や電話、FAX、Eメールを使った販売などを含む、すべての商取引金額(市場規模)のなかで、インターネット通販(EC)の市場規模が占める割合です。EC化率を見れば、国や各産業でECの活用がどの程度進んでいるかが分かります。この記事では、コロナ禍2年目の2021年のEC化率の状況や業種別のトピックスを、2022年8月に経済産業省が発表した「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」をもとに解説します。
この報告書では、BtoC(消費者向け電子商取引)の物販系分野とBtoB(企業間の電子商取引)におけるEC化率を算出しています。まず、物販系分野のBtoC-ECについて紹介します。
2021年の日本のBtoC-EC全体の市場規模は20兆6950億円。前年と比較して7.35%増加しました(※)。そのうちの物販系分野BtoC-ECの市場規模は13兆2,865億円で、EC化率は8.78%と前年より0.7ポイント上昇しています。
2020年のコロナ禍による巣ごもり消費の拡大は、物販系ECの売上を大きく伸ばしました。対面で販売できない分を補おうと新たにECに参入した事業者も多く、2020年のEC化率の伸びは前年の2019年に比べて1.3ポイント増となりました。
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BtoC-EC全体の通販市場規模についての詳しい解説は下記でご覧いただけます。
通販市場規模の現状は?ポイントを分かりやすく解説【2022年最新版】
次に、物販系分野BtoCのEC化率を業種別に見てみましょう。
2021年に最もEC化が進んだ業種は「書籍、映像、音楽ソフト」で、EC化率は46.20%、前年より3.23ポイント上昇しました。2020年には前年から8.79ポイントも増加しており、EC化が一気に進んできています。
EC化率の伸び率2位は、「生活雑貨、家具、インテリア」(28.25%)で、前年比2.22ポイント増。3位は「衣類、服飾雑貨等」(21.15%)で、前年比1.71ポイント増でした。
次に、物販系分野の6業種のトピックスをEC化率の高い順に紹介します。
書籍、映像、音楽ソフトは、2020年、2021年ともに最もEC化率が高く、EC化の伸び率も最大でした。
紙の出版市場が縮小するなか、書籍のBtoC-EC市場は緩やかに拡大を続けてきましたが、2020年にコロナ禍による外出自粛を契機に市場が一気に広がりました。
本ということでは、電子出版(BtoC-ECのデジタル系分野で計上)の市場も急速に拡大しています。ただし、電子出版の市場はその大半をコミックが占めており、コミック以外の電子出版物が紙の出版市場に与える影響は限定的だと考えられています。
映像・音楽ソフトの市場は拡大しているものの、成長が著しい動画、音楽配信の市場の影響を受けており、2021年のビデオソフトの出荷実績は前年割れとなりました(※)。
※出典:一般社団法人日本映像ソフト協会「2021年12月度 ビデオソフト月間売上統計報告」
このジャンルで注目したいのは、実店舗のあり方を見直す大手家電量販店の動きです。
高額な家電や機器の購入時には、現物を確認したい、スタッフにアドバイスをもらいたいという消費者のニーズがあります。スペック比較や口コミだけで購入を決めるのではなく、店頭で現物を触ったり、スタッフの話を聞いたりしたうえで、ECサイトで注文するといったように、店舗をショールームのように利用する消費者は多いのです。
こうした行動を敬遠するのではなく、店舗を積極的に「ショールーミング化」し、全体の売上を伸ばす試みが一部で始まっています。具体的には、店舗とECサイトの価格やサービスの垣根をなくす、顧客を店頭から積極的に自社のECサイトに誘導するといった取り組みが挙げられます。
このジャンルでは、市場全体の約7割を家事雑貨(食器、台所用品など)と家事用消耗品(洗剤、ティッシュなど)が、残りを家具やインテリアなどが占めています。
保存がきいて比較的単価が低い家事雑貨や家事用消耗品には、ECにおける「まとめ買い」や「ついで買い」のニーズがあります。最近は、利用頻度が高い商品のサブスクリプションサービス利用も広がっています。
家具、インテリアでは、AR(拡張現実)技術を活用して、家具を自宅に置いたイメージをスマートフォンで確認できるサービスを提供し、ECでの購入のハードルを下げようとする事業者が増えています。
衣類・服装雑貨に対する1世帯当たりの年間平均支出額は2020年以降、減少傾向にあります。その一方で、EC の市場規模は前年比9.35%と増加しており、EC化率も21.15%。アパレルの主戦場はすでにECに移ったとも言われます。
個性が重視されるこのジャンルでは、DtoC(Direct to Customer)と呼ばれる、自社ECサイトを通して直接消費者に商品を販売するモデルが増加しており、ブランド専用アプリによる顧客の会員化やライブ販売、オンライン接客などが盛んに行われています。
また、店頭からECサイトに誘導する店舗のショールーミング化と同時に、ネット上で商品を見たユーザーを店舗に誘導し、試着、購入へと導くウェブルーミング対策も進んでおり、店舗とECサイトの役割のボーダレス化が見られます。
化粧品はもともと対面販売への依存度が高い業種でしたが、コロナ禍により店舗販売が大きく落ち込み、ECへのシフトチェンジが求められました。
店頭で行っていた肌診断やカウンセリングがECサイト上で展開されているほか、LINEやチャットを使ったオンライン接客を通して、コミュニケーションを強化する動きがあります。一部のメーカーでは、メイクアップアイテムを自分の顔の映像で試すことができる、バーチャルメイクサービスの提供も行われています。
一般用医薬品は、市場は小さいものの右肩上がりで成長しています。加えて、2020年にはオンラインによる服薬指導を前提に、医療用医薬品の通販が実質解禁となりました。今後、オンライン服薬指導が広がれば、医薬品のEC化はさらに進むと期待されています。
「食品、飲料、酒類」は業種全体の市場規模が大きいこともあり、EC化率は業種分類のなかで下から2番目です。しかし、2021年の市場規模は前年比14.10%と全業種のなかで唯一2桁で成長しています。
成長の理由には、コロナ禍によって外食頻度が減り、日々の食材調達やストックのための食品購入が増えたことが挙げられます。コロナ禍がきっかけとなり、従来のEC専業者に加えて、総合スーパーや百貨店、食品や飲料のメーカー、菓子店などの参入が増え、商品のバラエティーが広がったこともあるでしょう。
ミールキットや食材の定期購入といったサブスクリプション型のサービスが定着してきたほか、インターネットで注文した食材や食品が短時間で届く即配サービス(クイックコマース)も普及が進みました。
ここで、BtoB市場のEC化率について簡単に見ておきましょう。2021年の日本のBtoB-ECのEC化率(※)は35.6%で、前年に比べて2.1ポイント増えました。
※BtoBのEC化率は業種大分類の「その他」を除いて算出コロナ禍はBtoBにも大きな影響を与え、2020年の市場規模は前年の94.9%まで落ち込みましたが、2021年には2019年比でプラス5.6%と回復しました。一方、EC化率は2020年も変わることなく上昇し続け、2017年からの5年間で累積すると6.2ポイントの増加となりました。
最後に、BtoBにおける業種別のEC化率を見てみましょう。
2021年の時点でEC化率が高いのはいずれも製造ジャンル。1位は「輸送用機械」でEC化率が74.3%にも達します。2位は「食品」で67.2%、3位が「電気・情報関連機器」64.2%と続きます。
製造以外のジャンルでは、EC化は比較的遅れています。しかし、「運輸」「サービス」「その他」「情報通信」では、2021年の市場規模が前年比10%以上の伸びを示しており、今後の成長が期待されます。
日本のEC化率はコロナ禍のもとで大きく伸び、2021年もその延長線上で堅調に成長を続けています。特に物販系分野BtoCの業種別トピックスからは、消費者の変化や新しい技術に対応して、ECのスタイルや手法が進化を続けていることが分かります。EC化を考える際には、こうした変化にも注目していきましょう。
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