インターネットを通じた商品購入は年々拡大傾向にあり、実店舗を持つ事業者もWeb上での販売に力を入れるようになってきました。EC物流は顧客からの注文を効率的に処理し、商品を迅速かつ正確に届けるためのプロセスです。ここではEC物流の業務内容とその重要性、課題と解決ポイントについて、事業者が知っておきたい情報を解説します。(2023年12月22日更新)
EC物流とは、ECサイトにおける商品の仕入れから倉庫保管、出荷など、配送に関わる業務全般を指します。
EC(Electronic Commerce)とは、インターネット上の店舗やショッピングモールなどを通じて商品やサービスを売買することです。
EC物流では、EC事業者が全体の管理者となるため、未達や出荷ミスなどのトラブルが生じた場合は、EC事業者が対応することになります。
EC物流のプロセスに関わる主な要素には、以下のようなものがあります。
EC物流は、BtoB(企業間取引)であるかBtoC(企業と個人の取引)であるかによって、特徴が異なります。
企業同士のやり取りで行うBtoB ECの大きな特徴として、1つの出荷先に対しての出荷量が多いことが挙げられます。また、同一商品を多量に扱うケースも多くなります。
一方、企業対個人のやり取りで行われるBtoC ECは、1つの配送先に対しての出荷数は少ない反面、出荷先は膨大な数にのぼります。また、取り扱う商品点数も多い傾向にあります。
それぞれのEC物流における特徴を把握し、配送時間の指定やコンビニ受け取り、宅配便ロッカーなど受け取り方法を柔軟に検討するとよいでしょう。
一般的な物流に比べて、EC物流ではBtoCの取引のほうが多いのが現状です。そのためEC物流の特徴は以下のようにまとめられます。
個人宅や指定場所への配送を希望する多くの顧客に対応していると言えます。
個人宅や指定場所への配送においては、顧客が受け取りやすい時間を指定するケースが増えています。
自宅配送のみならず、配送業者窓口での受け取りや、自宅周辺あるいは通勤通学路にあるコンビニエンスストアなど、多様な受け取り方法が指定されるケースが増えています。
一部の返品できない商品を除き、注文品を手元で確認後に、イメージと異なるといったEC販売で起こりがちな理由によって、返品されるケースが少なくありません。
EC物流の重要性について、EC市場の現状を踏まえて確認していきましょう。
上記の経済産業省のグラフから分かる通り、EC市場は年々拡大が続いています。特に新型コロナウイルスの感染拡大を受け、外出を控える人が多いなかで、ECの需要は大きな伸びを見せました。現在も、その影響が強まる以前の状況を超えた利用の拡大が続いています。
2022年度の宅配便取扱個数は50億588万個で、前年度と比較して5,265万個、約1.1%の増加となっています。
今後もこの傾向が続くと見られており、迅速かつ確実な配送の重要性はますます高まりつつあります。
EC物流の状態は、顧客満足度に大きく影響しています。
EC事業では、個別の顧客に対していかに迅速かつ正確に商品を届けるかが重要です。配送遅延や誤った商品の配送などが発生した場合、顧客の不満を引き起こし、リピート購買や口コミへの悪影響となる可能性があります。
市場での競争力を高めていくうえでも、スムーズなEC物流を実現することが大切です。
EC運営において物流コストが大きな比重をしめています。
ところが輸送費は年々上昇傾向にあります。その大きな理由は物流量の増加と配送ドライバーの人手不足によるものです。輸送費が上昇するということの影響は、入荷コストにも及びます。またBtoCに多く対応しているEC物流においては、年々、多品種の商品を扱う必要があるため、倉庫の確保、維持にかかるコストも増加します。
これら輸送費や保管コスト、返品処理のコストを削減することでEC運営における利益を拡大できる可能性があります。
検討すべき対策としては、検品・出荷などの物流プロセスの効率化や、自動化による人件費の削減、商品ロスの低減、配送ルートの最適化による燃料費の節約などが考えられます。
EC物流の具体的な業務の流れを、順を追って解説します。
販売するための商品の仕入れを行い、入庫伝票と照らし合わせて間違いがないかを検品します。
汚れや破損、異物が混入していないかを確認し、電子機器など商品によっては動作確認も行います。
検品後、問題がなければ商品を定められたロケーションに保管します。
ピッキングに備えて正しく分類し、温度や使用期限の管理などを徹底しながら品質保持に努めます。
注文があった商品を出荷指示書に従ってピッキングします。
出荷検品では、品番・数量について指示書と合っているかを確認します。
商品内容に合わせた梱包材、緩衝材を選び、梱包作業を行います。
商品に破損や汚れなどの不備が出ないようにすると同時に、サイズや内容に合った梱包を実施し、コストの最小化にも配慮が必要です。
発送先を登録し、配送業者に依頼します。
配送業者の選定では、信頼性とコスト効率を重視する必要があります。
顧客満足度を上げるための配送オプション、顧客が配送状況を追跡できるシステムなどの提供も業者選びのポイントとなります。
EC物流が抱える課題には、どういったものが挙げられるのか見ておきましょう。
EC需要の拡大によってさらに迅速さが求められる配送ですが、運輸業界をはじめ、さまざまな現場での人手不足や配送量・保管費の増加、昨今のエネルギー費の高騰など、取り巻く環境は厳しさを増す一方です。物流費のなかで大きな比重を占める配送コストの高騰は、ECサイトの利益に大きく影響します。
顧客からのさまざまな要望に対応しながら迅速な配送をするために、品質に配慮しながらもコストバランスを考えることが必要となってくるでしょう。
在庫管理と需要予測の精度向上は顧客満足度や収益に大きな影響を与えますが、これを的確に行うのは容易ではありません。
在庫をたくさん持てば倉庫代がかさみ、少なすぎれば欠品が発生してビジネスの機会を損失します。適正な在庫数を設定するには、需要だけではなく発注から納品までのリードタイムも、商品別に考慮に入れる必要があります。適正な在庫数を導き出すためには「安全在庫」(欠品を防ぐことを考慮して、需要やリードタイムの変動に対応できるように備えた量)と一定期間の需要数などを用いた、特別な計算式が用いられます。
また、需要を左右する要素は、天気や流行など不確定な部分も多く含むことも留意しなければなりません。
EC需要が高まるにつれて、顧客の返品要求への対応や返品の処理、返金手続きなども多くなります。
特に重視すべきなのが、ミス防止の対策です。返品処理の原因は顧客都合と販売側のミスがありますが、販売側のミスが原因の場合は対応の重要性と難易度が上がります。
返品を発生させないためにも、配送ミスの徹底排除に努めることが重要です。返品があった場合には、原因を明確にし、速やかに相応の処理を行います。
物流業界では、特に人材不足が深刻化しています。
人材不足によるミス、在庫管理の不備など、人的なリソース不足は円滑なEC物流の妨げとなります。
課題を踏まえながら、業務を改善するポイントを紹介します。
倉庫管理システムの導入、ルール設定、マニュアル運用を徹底し、熟練者でなくても作業がスムーズに進められるような体制を整備します。繁忙期、閑散期で雇用を調整し、人件費を抑える方法を考えます。
拠点の集約や往復物流などの工夫を行い、価格の抑制に努める事業者を選ぶといった、サービスのバランスを検討しながらパートナーを選定します。
過去の販売データや顧客の傾向を分析し、需要の変動要因を把握します。このとき、季節性や社会トレンドの影響も考慮に入れる必要があります。
売れ筋商品や遅延リスクのある商品を特定し、在庫レベルや発注数量を見直すことも大切です。
上記を実現するための有効策としては、在庫管理システム、データ分析ツール、サプライチェーン管理システムの導入や、データ分析の専門家との連携といった方法があります。
申し送りのルール整備、メモやピッキングリストの重要部分の強調、取り違えを防止するロケーションの工夫、重複チェック、業務フローをシンプルにするなど、過去のミスの誘発原因を明確にして、徹底した対策・改善への工夫を考えます。
ハンディターミナルによるバーコードや2次元コードの読み取りであれば、識別の間違いが軽減されます。在庫システムとの連動で、注文リストとの照合が機械的になされるため、商品の取り違えが起こりにくくなります。
バーコード管理、タブレット端末の導入など、物流業務の経験に乏しい人員でも業務が回る体制を整えることで、最小限の人員でミスのないEC物流を目指せるようになります。
在庫管理システム、物流プロセスの自動化、トラッキングシステムなど、EC物流を円滑化するためのテクノロジーが多数あります。自社の物流業務を効率化して、弱点や課題を補える技術を選定し、導入を検討します。
自社だけで解決が難しいと思われるときには、外部委託するのもひとつの方法です。在庫管理から配送まですべて一括で請け負うサービスから、一部分のみ委託できるプランもあります。自社の状況により、コストバランスを見ながら採用しましょう。
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消費活動の軸足がリアル店舗からネットショッピングへと移行しつつあるなか、事業者にとってEC物流はますます重要な課題となっています。EC物流の体制を整備することは、顧客満足度の向上と、事業による利益獲得に大きく貢献します。
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