販路の拡大が見込める海外に向けたオンラインビジネスに、将来性を感じる人は多いのではないでしょうか? 国境を越えて行うEC(電子商取引)を越境ECと呼びます。この記事では、越境ECに興味があるけれど、何から始めていいか分からないという人のために、越境ECの方法や市場規模、メリット、事前に検討しておくべきポイントなどを解説します
越境ECとは、日本から海外に向けてインターネットを使って商品を販売するEC(電子商取引)のことです。
越境ECを行うには主に次のような方法があります。
自社で越境ECサイトを構築し、運用する方法です。商品を販売する国や地域を決め、表示言語、通貨の表示、決済システムなどを現地に合わせて準備します。越境EC専門のカートサービスを利用する方法や、越境EC機能を備えている国内のカートサービスを利用する方法もあります。
現地で運営されている既存のECモールで商品を売る方法です。出店先には、越境ECによる販売を認めているECモールを選びます。国や地域によって越境ECに対応するモールはさまざまです。例えば、欧米ではAmazonやeBayが、中国では京東全球購(JD Worldwide)や天猫国際(Tmall Global)といったモールが越境ECに対応しています。
その国の状況を熟知した業者に、代行販売を委託する方法です。ニーズ調査からモールへの出店、ECサイトの運営やトラブル処理まで、地域に合った対応をしてくれます。業者にもよりますが、一部または全体の代行が可能です。
越境ECの市場は毎年拡大しています。経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」(※1)によれば、世界全体の越境ECの市場規模(2019年)は、7,800億USドルと推計されていますが、2026年には4兆8,200億USドルになり、年平均で約30%もの成長率で拡大すると予測されています。
日本企業の越境ECに対する姿勢も積極的です。日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した「2020年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(※2)によると、今後、海外向けにEC利用を拡大したいと回答した企業は2018年には35.9%でしたが、2020年には43.9%に増加しています。この傾向は特に中小企業において顕著です。
日本の越境ECの相手国のなかで、特に伸びているのが中国です。中国の消費者が日本の越境ECで商品を購入した額は1兆9,499億円で前年に比べ17.8%も増えており、この拡大傾向は今後も続く見通しです。
一方で、経済成長によって個人消費の伸びが見込まれるASEAN諸国や、市場規模が急拡大するロシアのポテンシャルの高さが、経済産業省の報告書において指摘されています。
前出の日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査でも、今後の海外販売先として中国、米国に次いで、台湾、シンガポール、ベトナム、タイといった名前が挙がっています。特に4位以降にASEAN諸国がランクインしており、日本企業の期待の高さがうかがえます。
※1出典:令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書
※2出典:2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(ジェトロ海外ビジネス調査)報告書
越境ECには、主に次の4つのメリットがあります。
越境ECの最も大きなメリットは、当然ながら、海外の顧客を獲得できることです。中国の人口は日本の約10倍、米国の人口は約2.6倍に上り、それぞれのEC市場が拡大を続けています。コロナ禍の影響で、世界的にオンラインショッピングの利用率が伸びていることも追い風になっています。
越境ECの方が、海外で実店舗を展開するより運営が簡単です。店舗を借りたり、店員を雇ったりする必要がなく、比較的少ない資金で海外に進出できます。
扱う商品によりますが、日本では競合がひしめいていても、海外ではライバルが少ないケースがあります。そうした商品を先んじて越境ECで販売すれば、ヒットが生まれる可能性があります。ただし現地のニーズに合わない商品は売れません。事前に綿密な市場調査を行う必要があります。
日本の製品は品質が良いというイメージは、アジアを中心に多くの国で持たれています。現地の商品と競合するとき、メイド イン ジャパンであることはセールスポイントになり得ます。
越境ECを始める前には、調査や検討をしておくべき、6つのポイントを紹介します。
越境ECには、受注後に日本から商品を配送する直送型と、現地の倉庫に在庫を持ち、そこから発送する相手国送付型の2つのモデルがあり、事業者はどちらかを選択します。
相手国送付型では、受注後、すぐに商品を顧客に届けることができます。しかし、商品をまとめて輸出しておくため、思ったように売れなかった場合は現地で在庫を抱えることになります。
直送型では、日本に商品があるため相手国送付型よりも在庫リスクを抑えられます。しかし、商品が届くまでに時間がかかるため、競争力が下がる可能性があります。
越境ECに参入するメーカーの商品が、すでに現地の実店舗で販売されている場合には、現地の流通業者と事前の協議が必要です。現地の販売店と越境ECの間で販売価格に差が生じて、どちらかが販売しづらくなる可能性があります。
また、現地の業者に販売ライセンスを付与している場合には、自社商品であっても越境ECの参入が難しいケースがあります。
例えば、中国にはCCC認証(China Compulsory Certification=強制製品認証)という制度があり、特定の機器類はこの認証がないとビジネスで扱うことができません。このような製品認証制度は、国によって内容が異なるため、あらかじめ調査をしておく必要があります。
販売価格についても、現地の状況をもとにした十分な検討が必要です。機能や品質面の違いを踏まえたうえで、自社商品と現地の競合商品の価格を比較しましょう。ECモールへの手数料や配送料などの現地でかかるコストを差し引いても利益が出て、かつ消費者から選ばれる価格にしなくてはなりません。
商品の破損や不着、不具合といった事態を想定し、関係者間で対応すべき責任の範囲を、事前に明確にしておきます。例えば、配送途中の破損や汚れであれば、配送業者が対応し、商品自体の瑕疵であればメーカーが対応するといった分担が考えられます。
消費者からの問い合わせ窓口の設定や、万が一のトラブルに備える保険(海外PL保険※)への加入なども検討します。
※海外PL保険:事業者が賠償責任を負うことで被る損害を補償する事業者向けの保険。PLはProduct Liabilityの略で「製造物責任」の意味。海外、特に米国で製品の欠陥による事故が発生すると、大規模な損害賠償請求訴訟に発展する可能性があることから、備えとして加入する企業が多い。
越境ECを始める国や地域の規制や法律を、しっかり調べておくことも重要です。ECであっても相手国で事業を展開しているという解釈から、外国企業としての登録が求められ、現地の法制度に基づいた対応が必要になるケースもあります。商標権の侵害や食品の安全などに関するルールも日本とは異なるため、注意が必要です。
多くの国でオンラインショッピングが日常化し、世界のEC市場が拡大を続けるなか、多くの企業が、国を越えて販路を広げるチャンスとして越境ECに注目しています。今後は中国や米国に加えて、ASEAN諸国などへの進出も増えるでしょう。越境ECを行う際は、綿密な現地の市場調査、法律や商習慣に合わせた準備が必要ですが、挑戦する価値は十分にあります。
参考:中国におけるECと輸入品市場の現状|日本貿易振興機構(JETRO)
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