企業間で取引をするBtoB ECは消費者向けのBtoC ECとは異なる点も多く、注意が必要です。この記事では、BtoB ECサイトを導入するメリットと構築するときに気をつけたいポイントを解説します。(2023年12月22日更新)
BtoBとはBusiness to Businessの略で、企業と企業の取引を意味しています。つまりBtoB ECとは、「企業が企業に向けて提供するオンライン販売サイト」ということになります。
BtoB ECには、自社で構築するECサイトのほか、企業間の取引専用のモール型ECもあります。日本のBtoB EC向けモールとしてよく知られているのは、「モノタロウ」や「ミスミ」です。こういったモールに出店すれば、自社のECサイトを構築しなくても、企業に向けたオンライン販売ができます。
BtoB ECに対して、企業が消費者に対して商品やサービスを提供する取引をBtoC ECと呼びます(BtoCはBusiness to Consumerの略)。BtoB ECではBotC ECとは異なり、最終製品だけでなく素材や部品を扱うことも多く、一度の取引で扱うロットや金額が大きいという特徴もあります。また、企業間取引に対応するために、BtoC ECとは異なる機能が必要です。BtoB ECで必要な機能は、のちほど解説します。
経済産業省の調査によると、2022年のBtoC ECの市場規模は22兆7,449億円でした。一方、同じ年のBtoB ECの市場規模は420兆2,354億円で、市場規模はBtoCの約18.5倍にもなります。また、すべての商取引に占めるEC市場の割合を示すEC化率もBtoBでは37.5%と非常に高くなっています。
このように市場が大きい理由には、BtoBの性質上、一度に扱う金額が大きいということがあります。また、以前から企業間の決済には、EDI(電子企業間取引)やEOS(電子受発注システム)といった、特定の相手と専用の回線をつなぐシステムが使われてきたのですが、このシステムを使った取引の金額がBtoB ECの数字に含まれていることが、EC化率の高さにつながっています。
ただし、現在多くの企業が採用しているISDN回線を利用したEDIは、2024年のISDNサービスの中止によって使えなくなります(2024年問題)。そのためEDIを利用してきた多くの企業が、そのタイミングで新たなBtoB ECに切り替えると考えられています。
働き方改革が進められるなかで、業務効率をどう改善するかが企業の大きな課題となっています。ITインフラの整備、スマートフォンやタブレットPCといったデバイスの普及、技術革新によって、今や膨大な設備投資をしなくてもBtoB ECをスタートできる時代です。書面や電話、口頭による受発注から、BtoB ECへの切り替えは、今後さらに進んでいくと考えられます。
BtoB ECであっても、カートや商品検索、決済といったECサイトの基本的な機能はBtoC ECと変わりません。しかしビジネスによっては次のような特有の機能が必要になります。
アクセス権を限定する機能です。クローズドサイトは会員のみがアクセスできるサイトです。半クローズドサイトはサイトへのアクセスは誰でもできますが、卸売価格のような詳細情報を確認して注文をするには、ログインが必要になります。
BtoB ECでは卸値や掛け率が取引先ごとに違うことが多くあります。取引先ごとに掛け率の設定ができるようにします。
企業間の取引では見積書が不可欠なため、BtoB ECサイトには見積もりを管理する機能が必要となります。見積もり機能の多くは、価格設定をしておけば自動で見積書を作成してくれます。
発注する前に上層部の承認を受ける必要があるときに便利な機能です。顧客は注文ボタンを押す前に、カートの内容を承認者に送ることができます。承認者が承認すれば注文が完了します。
決済方法ではクレジットカード、銀行振込、代金引換などに加えて、お得意様用として与信取引(掛け払い)が選択できるようにします。
取引先からの受注を電話、FAX、メールで行っている企業が、BtoB ECサイトを導入した場合、次のようなメリットが期待できます。
通常、受注から納品の間には「受注内容の管理」「在庫確認」「見積書作成」「納期確認」「請求書発行」といったさまざまな業務があります。受注にECサイトを使えば、商品情報や数量、配送先情報などを顧客側で入力するようになるため、注文を受けて伝票を起こし、それを関連部署に回すといった手間がなくなります。帳票類の出力やデータ管理も自動化できる部分が増え、業務を効率化できます。
また、ECサイトに各商品の詳細情報を写真入りで掲載しておけば、顧客が自分で商品について調べることができます。その結果、問い合わせに対応する時間も減らせます。
電話で聞いた内容から伝票を起こす、数字や文字を目で確認しながら手入力するといった作業が多いと、どうしても入力ミスが起こります。ECサイトで受注内容が管理できれば、手入力作業を大幅に削減でき、ミスを減らすことができます。
顧客情報や受注内容をオンライン上で管理することにより、紙や出力、コピーにかかるコストや保管場所にかかるコストが削減できます。作業効率が上がった分のマンパワーをほかの業務に振り分けることもできます。
発注側の企業にとっても、ECサイトで簡単に在庫を確認して注文できることで利便性が上がります。注文後も、納期や発送状況をサイト内で確認できるため、問い合わせや確認の頻度も減らせます。一方、受注側はECサイトと顧客管理システムを連携させることで、受注履歴や顧客情報を参考に、次の取引に向けたアプローチをブラッシュアップできるようになります。
取引先以外でも閲覧できるオープンサイトや、一部の情報以外は誰でもアクセスできる半クローズドサイトであれば、製品カタログをWeb上に掲載しているのと同様の効果を見込めます。
リスティング広告(Web検索結果に表示される広告)やSEO(検索で上位に表示されるようにする施策)を行うことで、特定の商品や関連する情報を探している企業が新規顧客になるかもしれません。ECサイトを訪問した企業や、サイト経由で問い合わせをしてきた企業を見込み客として、積極的に販促活動をすることも効果的です。
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リスティング広告やSEOについて詳しくは下記のコラムをご覧ください。
【初心者向け】リスティング広告とは?特徴や費用、上手な運用のコツを解説 SEMとは?SEOやリスティング広告との違い、関連マーケティング用語もまとめて解説
BtoB ECサイトを構築することによるデメリットもあります。
BtoB ECサイトの構築は大がかりで特有の機能が必要なことから、BtoC ECサイトよりも初期費用が多くかかるといわれています。現在の受発注の手順が変わるため、新しい手順に対応する配置替えやトレーニングといった、移行に伴うコストも必要です。
ECサイトの運営にはランニングコストがかかります。ビジネスサイズに合った適切なサービスを選ばないと、費用対効果が下がることがあります。
次にBtoB ECサイトを自社で構築するときに気をつけたいポイントを説明します。
ECサイトを構築する前に、現在の業務の流れがどのようになっているのかを明確にします。今までオペレーターや営業担当が対応していた受注入力、納期の連絡、在庫や価格の照会という業務が、新しいシステムにおいても確実に遂行できなければなりません。人だからできていた、融通を利かせることや弾力的な運用はもうしないと考えて、業務を明確にします。この段階で曖昧さが残ると、ECサイトに切り替えたあとに、現場が運用しづらいとか、顧客が不満を持つといった失敗にもつながります。確認しておきたい業務は、例えば次のようなものです。
業務を確認する際は、取引先から注文を受けたあとから実際に商品が届くまでの手順がどのようになっているか、フローチャートを作って書き出してみるといいでしょう。
自社でECサイトを構築するには、主に「ASP」「オープンソース」「パッケージ」「フルスクラッチ」の4つの方法があります。どの構築方法を選ぶかは、必要な費用やカスタマイズの自由度、専門知識の必要性といった要件のうち、何を重視するかによって決まります。自社のビジネスの規模に合った構築方法を選ぶことが大切です。
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ECサイトの構築方法に関する詳しい解説は下記でご覧いただけます。
ECサイト構築の手順を4つの手法別に比較解説!費用感や選び方のポイントまで
▼ECサービスの種類や特徴、選び方のコツなど、ネットショップ開業を考える方にすぐに役立つ情報が満載のeBookを無料でダウンロードいただけます。
構築方法を選択したら、どんな構築サービスを利用するかを考えます。先にも述べたように企業間取引のためのECサイトには、見積もりや顧客ごとの掛け率の違いなどに対応する特有の機能が必要です。時間や専門技術をあまり使わずにサイトを立ち上げたいのであれば、必要な機能があらかじめセットされたBtoB EC用の構築サービスを選ぶのがおすすめです。
最近では、多くのECベンダー(サイト構築サービスの提供会社)がBtoB EC専用のサービスを用意しており、さまざまな選択肢があります。選択の際には、コストや開発期間、必要な機能への対応に加えて、候補となっている構築サービスが自社の基幹システムと連動できるかどうかを確認しましょう。
ECというと売上を上げることに目が向きがちですが、BtoB ECサイトを持つことの最も分かりやすいメリットは、自社にとっても、取引先の企業にとっても、利便性がアップすることです。オンラインで情報をやりとりすることによって単純なミスや行き違いを減らし、面倒な受注から発送までの手間の多くを自動化することもできます。顧客データは、CX(顧客体験)を向上させる施策や、新規顧客を獲得するための販促企画にも大いに役立ちます。効率的な業務改善のためにも、自社のビジネスに合ったBtoB ECサイトの導入を検討してみましょう。
BtoB ECサイトの立ち上げを検討している方へ。TOPPANクロレでは、ECサイトのプランニングから構築、開発、運用までをお手伝いします。どのような悩みでもまずはご相談ください。