Webサイトを見ているときに、興味をそそられるコンテンツや商品が表示されて、ついクリックしたという人は多いでしょう。ECサイトやWebページ内で数多くの情報のなかから、そのサイトを見ている人が気に入りそうな情報を選択して提示するシステムが、レコメンドエンジンです。最近では特にECサイトにおいて、顧客の新たな購買意欲をかき立て、客単価を上げるための方法として欠かせないものとなりました。レコメンドエンジンの仕組みや導入のメリット・デメリットについて説明します。
レコメンドエンジンは過去に閲覧したサイトや購入をした商品の履歴をもとに、一定の法則に沿って、関連性がある商品や推奨したいコンテンツを表示するシステムです。ECサイトでよく見かける「この商品を買った人はこんな商品も買っています」や「あなたにおすすめの商品」という案内は、このシステムによるものです。
レコメンドエンジンには、サイト内での行動や購買履歴を分析して顧客が好みそうな商品を自動的に紹介する「協調フィルタリング」や、「パーソナライズドレコメンド」「コンテンツベースフィルタリング」「ルールベースレコメンド」「ハイブリッド・レコメンデーション・システム」といった仕組みがあります。それぞれ詳しく説明します。
レコメンドエンジンのなかで最もよく使われている方法が、協調フィルタリングです。閲覧や購入の履歴を自動で収集・分析し、そのデータをもとに推奨する商品を表示させる仕組みです。ECサイトで見かける「この商品を買った人(見た人)はこんな商品も買っています(見ています)」という表示は、この仕組みによるものです。協調フィルタリングには次の2種類があります。
サイト訪問者の行動分析をもとに閲覧や購入をした商品同士の類似度を算出します。商品A(例:金づち)を購入した顧客は商品B(例:釘)も購入しやすいといったデータの分析があれば、商品Aを購入した人に商品Bをすすめます。
対象者の行動分析をもとに、ほかのユーザーとの類似度を算出します。類似度の高いユーザーが購入・閲覧した商品を、対象者にすすめる仕組みです。
行動履歴をもとに顧客の嗜好(しこう)を分析し、その顧客が関心を持つと想定される商品を提案するものです。協調フィルタリングとは異なり、他人の行動履歴は参照されません。あくまでも対象者の傾向だけを分析するため、よりその人の好みに沿った商品に絞られるのです。「あなたにおすすめの商品」は、このシステムによって選ばれています。
特定の行動を取った人に対して、事前にグルーピングしておいた関連性のある商品をすすめる機能です。行動と商品群をあらかじめ設定しておくことで、類似商品や同じメーカーの別機種の商品を紹介することが可能です。
例えば、あるブランドのAというスニーカーの情報を見た人に対して、事前にグルーピングしていた同じブランドのスニーカーや別ブランドで似たデザインのスニーカーを提案します。その際、Aに傾向が近い順番で商品が並びます。
ECの運営者がすすめたい商品を、運営者が定めた法則に従って表示します。例えば、入学祝いキャンペーンの広告から流入したユーザーに、ランドセル、学習机、文房具などの入学準備アイテムを紹介するといったことが可能です。この手法は、期間限定商品やキャンペーン商品の推奨に多く用いられています。
複数の方法を組み合わせることにより、それぞれの弱点を補って精度の高いレコメンドを実現させるのが、ハイブリッド・レコメンデーション・システムです。例えばアメリカのNetflix社は、視聴者に映画やテレビ番組をすすめる際に、独自に開発した複雑なレコメンデーションシステムを使用しています。
レコメンドエンジンを自社のサイトに導入する方法には、ASP型とオープンソース型の2つの種類があります。それぞれの特徴や長所は次のとおりです。
ASPは「Application Service Provider」の略で、インターネットの環境があればPCからもスマートフォンからもアクセスして利用できます。ASP型のレコメンドエンジンは、クラウド上で利用できるサービスが多く、高い技術力がなくても簡単に導入できる点や、比較的低コストで導入できる点がメリットと言えます。
公開されているプログラムを利用するオープンソース型の場合は、自社でサーバーを用意して、レコメンドエンジンの管理や運用も自分たちで行います。
ASP型は導入が簡単ですが細かい変更ができません。これに対してオープンソース型は目的に応じて自由なカスタマイズができます。例えば利益率の高い商品を優先的に表示させるといった変更も可能です。しかしASP型よりも開発に費用がかかること、管理・運用に高い技術力が必要なことから、技術者を抱えた大手のECサイト以外ではあまり使われていません。
今や多数のECサイトでレコメンドエンジンが導入されています。そのメリットを挙げてみましょう。
顧客の好みや関心に合わせて商品をすすめることで衝動買いを促進し、購買率を向上させることができます。
顧客がもともと買うつもりだった商品に加えて、ほかの商品も購入してもらうことをクロスセルといいます。レコメンドエンジンを取り入れることはクロスセル施策のひとつです。追加の商品が買われて客単価が上昇すれば、客数が増えなくても売上がアップします。そして客単価の向上は、ECサイトにおけるLTV(※)の改善につながります。
※LTVとは
LTVとは、Life Time Valueの略で、日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれます。LTVは、1人の顧客が取引を始めてから終わるまでの期間にもたらす利益の総額を示す値です。LTVの高い顧客は、その企業の「根強いファン」と言えます。
Check
LTVについての詳しい解説はこちらのコラムをご覧ください。
LTV(ライフタイムバリュー)とは?意味や計算方法、LTVを向上させる施策を解説
クロスセルについての詳しい解説はこちらのコラムをご覧ください。
アップセル・クロスセルとは?顧客単価を上げLTVを向上させる施策を解説
実店舗での販売であれば、販売員がその場でおすすめの商品や関連商品を案内することができます。対面接客ができないECサイトにおいて、販売員に代わって商品の案内をするのがレコメンドエンジンです。販売員の場合は、その人の経験や知識によってサービスのレベルに違いが出ますが、自動的に行うレコメンドエンジンによる提案はサービスのレベルにぶれが生じません。もし顧客がすすめられた商品を気に入ってくれれば、そのサイトへの信頼感が増し、リピーターになってくれることも期待できます。
好きなジャンルの商品、興味を持っているアイテムの情報をチェックするのは楽しいものです。サイトを訪れた人が、レコメンドエンジンの提案をウィンドウショッピングのような感覚で楽しむこともあり得ます。そうなると、ECサイトの滞在時間は長くなります。
最後に導入する際のデメリットも知っておきましょう。
多くの取扱商品のなかからおすすめを選ぶことを目的とするレコメンドエンジンは、取扱商品が少ないサイトでは効果を発揮できないことがあります。自社のECサイトにレコメンドエンジンが合うかどうか、事前の検討が必要です。
レコメンドエンジンは、行動履歴のデータ数が少ないとレコメンドの質を保ちにくい性質を持っています。導入してからユーザーのデータが蓄積されるまでのしばらくの間は、レコメンドの精度が上がらない可能性があるのです。この問題は「コールドスタート」と呼ばれます。
一方、閲覧が少ないコンテンツや購入頻度の低い商品が掲載されにくいという弱点もあります。「少カバー率問題」と呼ばれるもので、マニア向けやニッチな商品は良いものであってもレコメンドの対象になりづらい傾向があります。
質の高いレコメンドができるサイトは、顧客から見ると、自分の好みの商品を教えてくれる便利なサイトになり得ます。そうなれば閲覧数や滞在時間が増え、客単価も上昇し、さらにはLTVの向上も期待できるでしょう。
閲覧や購入の履歴からおすすめの商品を提案するレコメンドエンジンの導入が、今、さまざまなECサイトで進んでいます。ECサイトの立ち上げや改修の際には、自社のサービスに合ったレコメンドエンジンを取り入れることを検討してみましょう。
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