顧客情報分析にはいくつかの手法がありますが、そのなかでもよく用いられているのがRFM分析です。売上・利益の最大化を図るうえで、顧客情報の分析は非常に重要なプロセスの一つになります。この記事ではRFM分析とは何かの基本知識から、分析方法や手順などを詳しく解説します。
RFM分析とは、最新購買時期、購買頻度、購買金額の三つの属性で顧客をグルーピングし、分析を行う手法です。
最新購買時期(R:Recency/リセンシー)
顧客が直近で自社の商品を購入した日時の情報です。一般的に、何年も前に自社製品を購入した顧客より、最近購入した顧客のほうが良い顧客であると考えます。
購買頻度(F:Frequency/フリークエンシー)
一定期間に顧客が何回購入したかを表します。購買頻度が多い方が良い顧客であると考えられます。
購買金額(M:Monetary/マネタリー)
一定期間中に顧客が自社商品を購入した金額の合計を表す情報です。こちらもやはり、金額が多いほうが自社にとって良い顧客だと考えることができるでしょう。
これらの三つの属性情報を単独、あるいは組み合わせて評価し、顧客の自社に対するロイヤルティの高さや、分析時点における状況などを把握しようというのが、RFM分析という手法です。
RFM分析は顧客の購買状況に沿ったマーケティング施策を検討する際に有効な手法で、ECサイトや実店舗などで幅広く活用されています。この分析手法を上手に活用し、顧客への適切なアプローチを実践しましょう。
RFM分析と似ている顧客分析方法として、デシル分析が挙げられます。デシル分析とは購買データを基に顧客を分類する手法です。この手法は分析指標が購入金額のみで、RFM分析よりも簡単に実施できることが特徴です。
デシル分析を活用することで顧客の売上貢献度を素早く把握できるため、優良顧客に絞ったマーケティングが早急に実施できます。ただしデシル分析は、顧客の購買頻度や購買時期に配慮しない分析方法です。 購入金額は高いが購買頻度の低い顧客を優良顧客と判定してしまう場合もあるため、デシル分析の特徴をよく理解したうえで活用しましょう。
RFM分析を行う目的は、顧客の状態を数値でシンプルに可視化することにあります。
近年、さまざまな場面でデータの重要性が見直され始めていますが、生(き)のままのデータというのは、あくまでも数字や文字の集合体にすぎず、それだけをただ眺めていても有益な情報は見えてきません。
たとえば、顧客の購入履歴データには顧客の購買傾向をはじめとしたさまざまな情報が隠されていますが、「○月○日、Aさんが1000円の化粧品を購入した」「☓月☓日、Bさんが150円のノートを購入した」といったデータの集まりだけからは、何かをつかみ取るのは難しいでしょう。
そこで、データのなかに潜む傾向を可視化するために、分析と呼ばれる作業を行います。具体的にはデータに対して集計を行ったり平均値をとったりして、データの特徴を数値で表現するのです。
RFM分析も、そうした分析手法の一つです。前述したR、F、Mの三つの軸で顧客をグルーピングし、その顧客が新規顧客なのか既存顧客なのか、優良顧客なのかそうでないのか、自社へのロイヤリティが高いか低いか、離反しつつある顧客は誰なのか、といった情報を可視化するわけです。
顧客の状態を可視化できれば、その顧客に対してどのようなアプローチを取るべきかが明らかになります。
例えば、購買頻度、購買金額の値が共に高く、最新購買時期もごく近い日時である顧客群は、自社に対するロイヤリティが高いと考えることができます。こうした顧客群に対して「お得意様限定セール」のようなキャンペーンを展開すれば、良い結果が得られる可能性があります。
また、過去のある時期において、購入頻度、購買金額とも高い値を示していたにもかかわらず、最新購買時期が古い顧客群は、何らかの理由で自社から足が遠のいていると仮定ができるでしょう。このような顧客群に対しては、早急に離反顧客呼び戻しの施策を展開すべきです。
RFM分析で取得した顧客情報を利用することで、さまざまなメリットを得られます。分析を通して顧客状況を可視化し、適切なマーケティング施策を打ちましょう。この章では、RFM分析のメリットを詳しく紹介します。
RFM分析のメリットは顧客状況を「見える化」できることです。最新購買時期・購買頻度・購買金額の観点から総合的にデータを判断することで、優良顧客や休眠顧客・新規顧客など顧客を細かく分類できます。そのため、顧客が自社の商品やサービスをどのように利用しているのかを判断できる分析方法といえるでしょう。
RFM分析を通して顧客を分類化し整理することで、データに隠れた顧客情報を可視化できます。
RFM分析を通して、適切なマーケティング施策が打てることもメリットの1つです。RFM分析を実施することで、自社の商品やサービスを利用している顧客には、どのような層が多いのかを把握できます。
RFM分析から施策の判断材料が得られるため「どの顧客層に対してどのような施策を打てばよいのか」を検討しやすいでしょう。さらに顧客状況に応じて施策の優先順位もつけやすく、取得したデータを基に顧客を絞り込んだアプローチも可能です。
では、RFM分析はどのように行えばよいのでしょうか。以下、RFM分析の流れをECサイトの商品を例に挙げながら順を追って解説します。RFM分析の進め方を理解することで、商品の販売促進に役立てられます。
上記は各分析指標に関する顧客行動を5段階に分類した表です。この表では、時期・頻度・金額を分析指標とし、自社が得る利益が高い順にランクを設定しています。
まず、R、F、Mのどのような組み合わせで顧客を分類するかを検討し、基準を策定します。
R(最新購買時期)については、直近の購入日が1週間以内なのか、1ヶ月以内なのか、半年以内なのか、というように、適度に範囲を区切って顧客を分類します。また、F(購買頻度)とM(購買金額)についても適切な範囲を定義し、R、F、Mの組み合わせにより顧客ランクを定義します。
R、F、Mそれぞれの分類方法に厳密なルールはありませんが、一般的には5段階くらいに分類して評価することが多いようです。たとえば、Rは「2週間以内、2週間~1ヶ月以内、1ヶ月~3ヶ月、3ヶ月~半年、半年以上」の5段階、Fは「直近半年間の購買回数が10回以上、6~9回、3~5回、1~3回、0回」の5段階、といった具合です。
値の間隔は自社の過去データなどを参考に決定しますが、初めてRFM分析を行う場合はひとまず仮決めで設定し、その後PDCAを回していくなかで調整をかけていくことになるでしょう。
次に、分析対象となる顧客群のデータを収集します。
RFM分析では購入の時期や頻度、金額をもとに分析を行いますので、これらの情報が含まれるデータを集める必要があります。具体的には、実店舗ならPOSデータなどから売上データを抽出し、ECサイトの場合は利用しているショッピングカートシステム(ECプラットフォーム)から注文情報などを取り出します。実店舗とECサイトの売上を統合管理するデータベースが整備されているのであれば、そこから売上情報を取り出すことができるでしょう。
なお、取り出したデータに重複やエラーデータなどが含まれると正しい分析が行えないため、この段階で必要に応じてデータのクレンジングを行います。
最後に顧客ごとの直近の購入日、一定期間内の購入回数と購入金額合計を集計し、それぞれの値の範囲で顧客をグループ分けします。
上記のグラフはRFM分析の結果を示したグラフです。横軸はR・F・Mそれぞれの合計スコアを表しており、縦軸は顧客数を表しています。
RFMの合計スコアに応じて顧客をグループ分けすることで、自社商品を取り巻く顧客状況が把握できるでしょう。
<グループ分けの例>
その上で、1で定義した基準に沿って顧客のランク付けを行います。こうしてランク付けを行った顧客群に対して、必要なアプローチをかけていきます。
RFM分析には多くのメリットがある一方で、懸念点も存在します。 RFM分析は顧客の購買行動に基づいて分析する手法であり、商品の特製やサービスの内容に配慮しない分析方法です。そのため、季節性の商品やリピート購入が少ない商品の分析には不向きな手法といえるでしょう。
例えば、セールやキャンペーンなどで一時的に高額な商品を購入したり、連続購入したりする顧客を優良顧客と判断する場合があります。これらの懸念点を解消するためには、他の顧客分析手法と併用する必要があるでしょう。
RFM分析を実施する際、分析ツールや顧客情報の管理システムを利用することで、より効率的にデータを取得できます。RFM分析のポイントを詳しく解説します。
RFM分析を実施する際、有益な顧客情報を得るためにはデータサイエンスの知見を深め、ツールを活用しながら分析を進めることが大切です。例えば、業務での利用頻度が高いExcel(エクセル)でもRFM分析は可能です。他にも、プログラミング言語であるPython(パイソン)を利用すれば機械学習を実装できるため、効率的にRFM分析を実施できます。
これらのツールを使いこなすスキルや、統計学などの理解を深められれば、最適なマーケティングを実践できるでしょう。
顧客情報の管理システムを活用し、効率的にデータを取得することもポイントです。下記のツールを利用すると細かな分析工程をカットできるため、円滑に顧客情報を把握できます。
CRMツール
顧客情報を管理するためのツールです。 CRMを用いて顧客情報や行動を管理することで、顧客との関係性を把握できます。
MAツール
社内に蓄積した顧客情報を一元管理できるツールです。 新規顧客の獲得や見込み客の育成に役立ちます。
前述のとおりRFM分析は商品やサービスの特性を注視しない分析方法です。他の分析項目を加えることでRFM分析の懸念点を補い、より有益な顧客情報を取得しましょう。
MRFI分析
Item(商品)の項目がRFM分析に加わった分析手法です。 項目にItemが加わることで、より明確な顧客情報を取得できます。
RFM-D分析
エリア情報の指標をRFM分析に足した手法です。 店舗と顧客の物理的な距離(Distance)に配慮した手法なため、エリアマーケティングに活用できます。
以上、この記事ではRFM分析の概要を説明し、RFM分析を行う際のおおまかな流れを紹介しました。
RFM分析を正しく実施できれば、勘や経験だけに頼るのではなく、より科学的に顧客に対するアプローチを検討できます。
とはいえ、適切な顧客ランクを定義したり、元データを分析可能な状態に整備したりするのは、口でいうほど簡単ではありません。データ分析に関するノウハウ・技術が自社内に整備されていない場合は、経験豊富なパートナー業者へのアウトソーシングも視野に入れることをおすすめします。
TOPPANクロレでは、データドリブンなマーケティング・プロセスの実現を支援する「デジタルマーケティング支援サービス」をご提供しています。RFM分析による顧客の見える化だけでなく、分析にもとづいたマーケティングシナリオの設計、実行まで支援いたします。
読み物
顧客データ分析基盤 CDP についての記事もございます。是非ご覧ください。
特集:CDPで可視化する顧客行動。マーケティングのポイントはユーザー起点~小畑陽一氏