CX(顧客体験、Customer Experience)とは、顧客が商品やサービスに興味を持った段階から調査・検討を経て購入、使用、購入後のアフターサポートに至るまでの、顧客が商品に接する流れのなかのすべての体験を指します。 例えば、ある商品を買う際、以下のような流れがあるとします。
テレビや店頭、SNSでその商品のことを知り、興味を持つ
口コミ・実際の使用感・価格などを調べる
実際に商品を見に行く・販売サイトへ訪れる
商品を購入するために会計レジへ並ぶ・サイトでフォームに入力し、ショッピングカートに入れる
実際に使用してみる
問い合わせをする・アフターフォローを受ける
継続利用のオファーを受ける・再購入をする
これらのフェーズのすべてが「顧客体験」です。商品そのものの価値だけでなく、商品のありとあらゆる面においての顧客との接触を「顧客体験」と捉えます。そして、すべてのフェーズで優れた顧客体験を提供すること(顧客体験価値の向上)によって、商品へのロイヤルティを向上させることが期待できるのです。
ロイヤルティとは商品やブランドに対する顧客の“忠誠度”であり、どれだけファンになっているかの度合いを表す指標とも言えます。
CXの概念を提唱したアメリカの経営学者バーンド・H・シュミット氏は、感情的な価値を「Sense(感覚的価値)」「Feel(情緒的価値)」「Think(知的価値)」「Act(行動、ライフスタイルにかかわる価値)」「Relate(社会的経験価値)」 の5つに分類しています。
視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感を通じて得られる経験価値です。おいしい料理、心地よい音楽、手触りの良さなどの感覚を通じて価値を感じます。
顧客の感情・内面に働きかける経験価値です。嬉しい、かわいい、感動する、安心する、など心を動かされる経験を言います。
顧客の創造性や知的欲求、好奇心に訴えかける経験価値です。たとえば、知的欲求が刺激される、興味をひかれる、自分自身を高められるというように、知的好奇心を満たしてくれる経験がこれにあたります。
今までにない体験や新しいライフスタイルの提案など、行動における新しい価値を提供することです。たとえば、体験型のアクティビティといった身体を通じて得られる経験、やったことのない習い事体験などがあります。
特定の集団に属することで得られる経験価値のことです。たとえば、ファンクラブや限定イベントへの参加など、帰属することで特別感を得られる経験がそれにあたります。
顧客満足度調査などを利用してユーザーのロイヤルティーを高めていく施策や考え方は従来からありましたが、以下のような時代の変化により、顧客の体験価値を高めることがあらためて重要視されています。
では、どうすれば顧客の体験価値を向上させることができるのでしょうか? その施策は次のようなプロセスで行います。
現状の顧客体験を把握・整理する
顧客評価をさまざまな角度から調査し、課題を可視化する
課題をクリアするための仮説・検証・改善を繰り返す
現在の商品・サービスにはどのような顧客との接点が存在するのかを徹底的に洗い出し、時系列に整理していきます。具体的には「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれる、顧客の購買行動・思考のプロセスを細分化するマップを作り、顧客と商品との接点を一つひとつ把握します。
作成したカスタマージャーニーマップをもとに、いろいろな手法で顧客の評価を調べます。サイトのアクセス解析やユーザーレビュー、ソーシャルリスニング、カスタマーサポートに寄せられた声などの情報を広い角度で収集し、顧客との接点ごとに分析し、それぞれの課題を抽出します。
定量的な調査では、「 NPS (ネットプロモータースコア)」という手法を用いることもあります。NPSは、単なる現状調査にとどまりがちな「顧客満足度調査」とは違い、今後商品やサービスを人に勧めたいかどうか、という未来の顧客の行動を計測するもので、今後の継続購入率や収益性の目安を知ることができます。
抽出された課題から仮説を立て、ユーザーインタビューやアンケートを行うことで、課題をさらに明確にします。次に浮き彫りになった課題に向き合い、改善施策を立案、実行します。
顧客体験の向上は、その商品やサービスに関わるすべてのフェーズを通じて意識する必要があります。部門やチームを超えて連携して、顧客体験価値を高めていきましょう。
次に、顧客体験の向上に取り組み、成果を上げた3つの事例を紹介します。
株式会社IDOMが運営する中古車買い取り・販売の「ガリバー」では、車を購入するには実店舗を訪れる必要がありますが、来店する顧客の半数が事前にサイトで情報をチェックしていたことがわかりました。そこで同社では、デジタル上でも店舗と変わらない接客をする必要性を感じ、チャットボット(※1)を導入。問い合わせ内容による振り分けはチャットボットが、コミュニケーションはスタッフがオープンチャットで行うようにしました。また、チャットの文言を顧客のニーズに合わせて変更するといったきめの細かい対応を始め、オンライン上の顧客体験を向上させました。
その結果、導入個所のコンバージョン率は前年の1.55倍になり、全体の利益が前年比10%増になりました。
※1:「会話(chat)」∔「ロボット(bot)」の2語を組み合わせたもの。主にWebやスマホアプリなどで提供される対話式の コンピュータープログラムのこと。
プロ野球球団の東京ヤクルトスワローズでは、ファンクラブ会員にとっての“重要な顧客体験”を把握するためにNPS調査を実施。その結果から3つのテーマを抽出し、より満足してもらうための改善を行いました。
入会時にもらえる特典やグッズの価値が高いということがわかり、入会特典を複数のグッズのなかから選択できるように変更しました。
入会後には、「選手と触れ合える機会」が強く求められていることがわかり、選手がクラブハウスから球場に移動する間に、会員が選手と一緒に写真撮影ができるイベントを実施しました。
本拠地(神宮)から遠い所に住んでいるファンは、会員になってから受ける体験価値が比較的低いことがわかり、地方限定のグッズやユニフォームを開発・販売しました。
これらの取り組みの結果、NPSの点数が大幅に向上。ファンクラブの会員数は2.5倍に成長し、さらに、よりグレードの高い「プラチナ会員」の数を増やすことにも成功しました。
紳士服専門チェーンの株式会社コナカが展開するオーダースーツブランド「DIFFERENCE」は、実店舗とオンラインを融合させた新しい顧客体験によって、2016年のオープンから1年で43店舗まで成長しました。
顧客は、初回は直接店舗に赴きテイラーに採寸してもらいますが、2回目からは採寸データやカウンセリングシートをもとにオンラインで注文できます。さらに、気になる生地の質感や仕上がりイメージも、専用アプリでリアルに確認できるようになっています。
また、「採寸予約→来店・購入→アフターフォロー→再来店」までを一つのCXとして設計し、接客や提案内容を顧客ごとに最適化。購入後の提案メールやテイラーからのフォローメールは、開封率60%超という高い成果を上げています。
このように、リアル(実店舗・テイラー)とWebの強みを組み合わせたパーソナライズ施策によって、顧客のロイヤルティを高めることに成功した事例と言えるでしょう。
これらの事例からは、顧客体験を向上させるには、いくつもの接点における顧客のインサイトを的確にくみ取り、きめ細かい対策を丁寧に行っていくことが重要だということがわかります。
社会や情報環境のさまざまな変化により、消費者の購買行動も変化しつつあります。顧客とのあらゆる接点を意識し、質の高いコミュニケーションによって顧客体験価値を高めていくという視点は、これからの企業経営には欠かせないでしょう。まずは現在の顧客との接点を洗い出し、それぞれの顧客体験を把握することから始めませんか。