現代は、さまざまなビジネスにおいて、商品の質や機能で差別化をすることが難しくなりました。また少子高齢化の影響もあり、新規顧客の獲得がますます難しくなっていくとされています。これからの時代に市場で生き残っていくためには、既存の顧客を長期的に支持してくれるファンにする=「ファン化」することが重要です。今回は「ファン化」について、その定義やメリット、そして顧客をファン化するための3つのポイントについて解説していきます。
「ファン化」とは、既存の顧客を、よりエンゲージメント(つながりの度合い)の高い顧客=ファンに育てることです。
一般的な顧客とファンの大きな違いとして、ファンは「応援者」であるということが挙げられます。一般的な顧客は、商品を「使っているだけ」であり、より安く、よりスペックの高い商品があれば、そちらに移行する可能性があります。しかし、ファンはその商品を「愛好」し「応援」しているため、ほかに良い商品があったとしても移行せず、長くその商品を使い続ける可能性が高いと言えるでしょう。
売上を伸ばすための施策というと、まずは新規顧客の開拓に目が行きがちです。しかし、ビジネスの現場では売上高の8割は、既存顧客の2割が占めている(パレートの法則※1)と言われているように、一部の優良顧客のリピート購入が企業を支えていることが多いのです。また、5%の既存顧客の離脱を防ぐことができれば、利益率が25%改善できる、というマーケティングの法則(5:25の法則)もあります。既存顧客を維持できるかどうかによって、企業の利益は大きく変動するのです。
このように、今後の企業活動には、LTV(※2)を高めることによって売上を伸ばしていく戦略が必要です。そのためには、自社の商品やブランドに深い愛着を持ち、長期的な関係を築いてくれる顧客=ファンを増やしていくことが求められます。
※1 パレードの法則:世の中のあらゆる事象において、それを構成する全体の2割の要素が8割のせいかを出しているという考え方。
※2 LTV: Life Time Value (ライフタイムバリュー)の略で、顧客生涯価値のこと。1人の顧客が企業と取引を開始してから終了するまでの間にどれだけの利益をもたらしてくれるのかを表す指標。
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LTVについて詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
LTV(ライフタイムバリュー)とは?意味や計算方法、LTVを向上させる施策を解説
顧客が「ファン化」すると、具体的には以下のようなメリットが得られます。
商品やサービスをリピートして利用する人が増えれば、企業側は売上の予測が立ちやすく、事業の安定性が増します。また、新規顧客への販売コストは、既存顧客への販売コストより5倍かかると言われており(1:5の法則)、リピート購入を増やすことは、新規の営業や新商品開発にかかるコストの削減にもなるのです。
ファンは口コミやSNSで商品やサービスの情報を発信してくれることがよくあります。人間には、自分が良いと強く感じたものについて「紹介したい、誰かに話したい」という心理があるのです。一方で、「友人のような近い関係の人からの口コミは信頼できる」と考えている人も多くいます。個人の口コミがSNSによって広く拡散する今、ひとりのファンから高く評価されることは、多くの新たなファンをつくる可能性を持っているのです。
特定の商品のファンになると、同じブランドの商品や、関連するほかの商品の情報にも関心を持ちやすくなります。それまで手にすることがなかった高単価な商品に注目したり、購入したりする確率が高まるかもしれません。
その商品を愛好し、応援しているファンは、スペックや価格の多少の変動には左右されにくい傾向があります。そのため、根強いファン層を持つ商品やブランドは、競合との細かいスペック競争やシビアな価格競争に巻き込まれるリスクが比較的低いのです。
それでは、どうすれば顧客をファンにできるのでしょうか? 顧客はどんなことでファンになるのか、いろいろな要素がありますが、以下のような3つのポイントにまとめることができます。
想定している顧客がこの商材やサービスに期待していることは何でしょうか? 現在の店舗の雰囲気や、店員の接客態度などはどう受け取られているでしょうか? コーポレートサイトや商品購入ページなど、オンラインのタッチポイントは、ユーザーの要望に応えられているでしょうか?
アンケートや日々集まってくる販売データ、接客やカスタマーセンターで受ける生の声などから、顧客ニーズをしっかりと把握しましょう。顧客の期待を超える、より良い商品・サービス、質の高い対応をすることによって、満足度を上げることができます。
テクノロジーの進化により、購買に関わるデータを広く取得できるようになりました。顧客データを収集、分析、管理し、活用することで、個々の顧客とより良い関係性を築くCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)の手法も普及してきています。データに基づいて、一人ひとりの顧客に合わせたきめの細かい接客やアプローチ、商品設計などを行いましょう。顧客はそのブランドや商品、サービスを“自分のためのもの”“自分に合っている”と感じ、満足度や信頼感が高まります。
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CRMについては、こちらの記事でも解説しています。
CRMで勝ち組を目指せ!これから始める企業のためのCRM戦略構築のポイント
ECサイトでのCRMについてはこちらの記事もご参照ください。
ECサイトにおけるCRMの重要性とは?
ファンイベントやSNSなどを通して、企業と顧客の距離を近づける取り組みも有効です。例えば、顧客の声をもとに新商品を開発するという企画の場合、商品づくりのストーリーに関わった顧客は、単なる消費者としてではなく、自分も作り手側の一員としてその商品に関与している気持ちになります。自分がこの商品を支えている、という意識が強いファン化につながるのです。
また環境保護や社会課題への取り組みなど、企業のメッセージや社会活動のスタンスに共感することによって、企業や商品の熱いファンになることもあります。
ここでは積極的にファンづくりに取り組んでいる企業の事例を紹介します。
「よなよなエール」や「水曜日のネコ」などのクラフトビールを製造している株式会社ヤッホーブルーイングは、「日本のビール市場を盛り上げたい」という企業理念を持ち、ビール業界で独自のポジションを築いています。ファンマーケティングの成功例として、必ずと言っていいほど名前が挙がる企業です。
定期的に開催している「よなよなエールの超宴」は、同社のビールを味わいながら、さまざまな切り口でビールの文化を楽しみ、スタッフやほかのファンと交流するファンイベントです。2015年に約500人でスタートしましたが、一度参加したファンが次のファンを呼び、2018年には5,000人規模にまで拡大しました。
また、「会社から早く帰れる夜を増やそう」という目的で「定時退社協会」を立ち上げ、「若者への正しい定時退社知識の啓蒙」、「理不尽な仕事からの護身術セミナー」など、ユニークな発想で働き方やワーク・ライフ・バランスについて考える活動も積極的に展開しています。このような社会課題にユーモアのあるスタンスで向き合う姿勢も、多くの共感を集めています。
パタゴニアは、サステナブルな素材や長く使える機能的な商品を提供しているアウトドアブランドですが、環境問題に熱心に取り組んでいることで有名です。パタゴニア社は1985年に売上の1%を自然環境の保護・回復のために使うことを誓約し、これまでに総額8,900万ドル相当を環境保護団体に寄付してきました。また、環境・資源問題に対する支援や情報発信を長年続けています。
最初は機能やデザインに引かれてアウトドア用品を購入した顧客が、パタゴニアの価値観や取り組みに共感してファンになるというケースが多いそうです。そうしたファンは、製品のフィードバックにも積極的で、購入するだけでなく、作り手に近い位置から長くブランドを支える存在になっています。
福岡ソフトバンクホークス株式会社は、ファンクラブ、チケット購入、通販などの顧客データベースを一元化し、CRMシステムを使って顧客情報を管理することで、ファンの一人ひとりに適したサービスや情報を提供しています。
例えば、チケット購入者に対して、観戦日のヤフオクドームでの飲食やグッズのおすすめやお得な情報を掲載した『ヤフオクドームガイドメール』を前日に配信。ほかのメールに比べ4倍ものクリックがあるそうです。このように、試合前、観戦時、試合後など、野球観戦にまつわる行動のタイミングに合わせて、情報を配信したりポイントを付与したり、ファンの盛り上がった気持ちに寄り添ったサービスを提供しています。
アプリや会員ページでは、ファンの属性・関心・行動に沿ってバナーを出し分け、男性には女性限定イベントのバナーは出さない、通販を利用したことがない人には通販のキャンペーン情報は出さないというように、個々のファンにとって“自分と関係ない情報”が目に入らないような工夫もしています。
デジタルマーケティングを駆使したきめの細かいコミュニケーションが、ファンとの絆をさらに強めています。
今回は、「ファン化」について解説しました。多くの市場で新規顧客の獲得が難しくなっていく中、継続的に収益を上げて生き残るためには、既存の顧客を、より強いつながりを持つ「ファン」にすることが不可欠です。顧客の心に寄り添い、顧客の満足度を高め、さらに共感を得ることで、多くの顧客にファンになってもらい、長期的な関係を築いていきましょう。
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