まずは、エンゲージメントやエンゲージメントマーケティングとは何かを解説します。
エンゲージメント(Engagement)とは、直訳すると「婚約」「約束」「深い結びつき」などの意味する言葉です。マーケティングにおいては、企業・ブランドと顧客との間にある「信頼関係」や「愛着・好意の度合い」を指します。
エンゲージメントマーケティングとは、一方的なプロモーションで商品を売るのではなく、顧客との継続的なコミュニケーションを通じて良好な関係性を構築・強化していくマーケティング戦略のことです。
強固な関係性は、商品やサービスの選択に好影響をもたらします。リピート購入や継続的な利用が促進されるだけでなく、価格が多少高くても自社の商品やサービスが選ばれることが増え、結果的にLTV(※)の向上が期待できます。
※LTV…顧客生涯価値。1人の顧客が取引を始めてから終わるまでの期間にもたらす利益の総額。
従来のマーケティングが「不特定多数へ一方的にアピールして単発の購入(売上)を目指す」スタイルであるのに対し、エンゲージメントマーケティングは「個々の顧客との対話を通じて信頼関係を深め、継続的なファンになってもらう」スタイルです。
売って終わりにせず、購入後も長期的に良好な関係を保ち続ける点に大きな違いがあります。
エンゲージメントマーケティングが注目されるようになった背景には、社会と人々の行動の変化があります。
品質や技術が向上した現代では、競合他社との「機能」や「価格」での差別化が困難(コモディティ化)になっています。高付加価値な商品を開発してもすぐに類似品が登場するため、「機能の良さ」だけでなく「このブランドだから買いたい」という情緒的な価値や信頼感が選ばれる基準となっています。
インターネットやスマホの普及により、顧客は企業からの宣伝をそのまま受けるのではなく、自分から能動的に情報を検索・比較できるようになりました。その結果、企業側からの一方的な広告や営業アプローチは敬遠されやすくなっています。
SNSの普及により、一般ユーザーの発信(UGC:ユーザー生成コンテンツ)が購買行動に強い影響を与えるようになりました。「企業の宣伝文句」よりも「実際の利用者のリアルな口コミ」が信頼される時代になったため、購入後の顧客満足度や評価を高める取り組みが重要です。
顧客の購買行動は、従来の「認知から行動で終了する」直線的な流れから、購入後に「検索・共有・拡散」が行われる循環型へ、さらに生成AIなどを活用した「効率化・AI介在型」へと変化しています。
代表的な購買行動モデルの変化と、近年注目されるモデルは以下の通りです。
ネットやSNSの普及に伴い、単に商品を認知して買うだけでなく、口コミの閲覧や共有がプロセスの中心となりました。
ULSSAS(ウルサス): SNSの口コミ(UGC)を起点に、検索・購買・さらなる拡散へと循環していくモデル。
近年、ChatGPTやGemini、GoogleのAI Overviews(AIによる検索概要)などの生成AIが普及したことで、顧客の購買プロセスにはさらに大きな変容が起きています。
情報収集と比較検討の「短縮・圧縮」: これまでは顧客自身が複数のWebサイトや口コミを巡回して情報を集めていましたが、現在は「〇〇な課題に合うおすすめのツールを3つ比較して」とAIに質問し、一瞬で回答や絞り込みを得る行動が広がっています。
「AIへの相談」による意思決定: 購入金額が大きい商品(自動車・金融など)や専門的なサービスでは、購入前の疑問や条件整理の段階からAIを“アドバイザー”として活用する顧客が増えています。
エンゲージメントの重要性がさらに高まる理由: スペックや価格の比較をAIが客観的・効率的に行う時代になったからこそ、最終的に選ばれるためには、AIの比較結果を超えた「ブランドへの信頼感」「過去の良好な体験」「ファンとしての愛着」といったエンゲージメント(強い結びつき)が重要となります。
エンゲージメントマーケティングを推進することで、企業には次のような大きなメリットがあります。
ブランドに愛着を持つ顧客は、リピート購入や関連商品のクロスセル・アップセルを行ってくれるため、一人の顧客が生涯にもたらす利益(LTV)が大きく高まります。
強い信頼関係が構築できていれば、一時的な競合他社のキャンペーンがあっても他社へ乗り換えにくくなり、解約や顧客の離脱を未然に防ぐことができます。
熱狂的なファン(エンゲージメントの高い顧客)は、SNSや口コミで自発的に商品の魅力を発信してくれます。これにより、多額の広告費を投じなくても、新たな見込み顧客を獲得しやすくなります。
「このブランドが好き」「信頼できる」という感情的な価値が生まれるため、他社より価格が少し高くても選ばれ続け、過度な値下げ競争に巻き込まれずに済みます。
エンゲージメントマーケティングを推進するための代表的な戦略を紹介します。
顧客の悩みや関心事に寄り添い、役に立つ情報(オウンドメディアのブログ記事、解説動画、お役立ち資料など)を継続的に届ける手法です。売り込み感を抑え、「この企業は自分たちの課題を理解して解決してくれる」という信頼感を蓄積します。
関心が薄い潜在層を徐々に育成し、比較検討から購入、さらには根強いファンへと導く土台となります。
すべての顧客に同じメッセージを一斉送信するのではなく、属性(年齢・性別など)や行動履歴(閲覧ページ・購入回数など)に合わせて個別に最適化されたアプローチを行う手法です。
レコメンデーション: 過去の閲覧・購入データをもとに、一人ひとりの好みに合った商品をWebサイトやアプリ上で提案します。
セグメント配信: 顧客の関心度や購入段階ごとにグループ分けし、それぞれに響く内容のメールマガジンを送り分けます。関心のある情報が届くため開封されやすく、アクションも喚起しやすくなります。
ステップメール: 「購入直後」「1週間後」「1ヶ月後」など、利用期間やタイミングに合わせてフォローメッセージや活用ノウハウを自動配信し、リピート購入や再訪を促します。
X(旧Twitter)、Instagram、LINEなどのSNSを通じて、顧客と日常的かつオープンにコミュニケーションを取る手法です。
企業の公式アカウントからコメントの返信や「いいね」を送ることで親近感を生み、親密な関係を作ります。また、顧客同士が活用法を語り合ったり交流できたりする「オンラインコミュニティ」を形成・運営することで、熱量度の高いファンを育成・維持することも可能です。
ただしSNSには炎上のリスクがあります。投稿は十分に吟味して行うようにしましょう。
実際にエンゲージメントマーケティングに取り組む際の手順は以下の通りです。
まずは自社にとって理想的な顧客像(ペルソナ)を具体的に設定しましょう。
その上で、ペルソナが認知から購入を経てファン化するまでに「どんな課題を抱え」「どのような感情になり」「どう行動するか」を時系列で描いたカスタマージャーニーマップを作成します。これにより、いつ・どこで・どんなアプローチが必要か明確になります。
現在の顧客対応において「購入後の離脱が多い」「SNSでの話題化(UGC)が少ない」などの課題を整理します。その上で、施策の成果を客観的に評価するための指標(NPS、リピート率、LTV、解約率など)と数値目標(KPI)設定しましょう。ゴールを明確にすることで、施策がブレなくなります。
カスタマージャーニーに沿って、どのチャネル(Webサイト、メルマガ、SNS、店舗、会報誌など)でどんな施策やコンテンツを提供するか計画します。
例えば「新規購入者には1週間後にステップメールで使い方を案内する」「既存会員にはSNS限定イベントを案内する」といった具体的なコミュニケーションプランに落とし込みます。
計画に基づき、実際の施策を開始します。手作業だけでは限界があるため、MA(マーケティング・オートメーション)やCRM(顧客管理システム)などのITツールを導入・活用し、顧客データに基づいた適切なメッセージを正しいタイミングで配信・提供していきます。
施策実行後は、設定したKPIの数値を定期的に分析します。「メルマガの開封率は高いが、クリック率が低い」「SNSでの反応はあるがリピート購入につながっていない」などの結果を確認し、メッセージ内容、配信頻度、提供コンテンツのアップデートを繰り返し行っていきます。
「顧客との関係性」や「愛着」という、目に見えにくい要素を数値化・評価するための代表的な指標は以下の通りです。
顧客一人ひとりに合わせた丁寧なコミュニケーションを大規模かつ効率的に行うには、ITツールの活用が欠かせません。代表的な2つのITツールを紹介します。
見込み顧客の獲得や育成を自動化するツール。
顧客の行動履歴に応じてメールを個別送信したり、興味関心度をスコアリング(点数化)することができます。
顧客の基本情報、過去の購入履歴、お問い合わせ履歴などを一元管理するツール。購買後のフォローやリピート促進、カスタマーサポートの向上に活用できます。
エンゲージメントマーケティングは、短期的な売上を追うだけでなく、顧客との絆(エンゲージメント)を深めることで中長期的な事業成長と収益の安定化を目指す戦略です。
顧客の声に耳を傾け、適切なチャネルとタイミングで価値あるコミュニケーションを積み重ねていきましょう。
TOPPANクロレでは、SNS運用からファンマーケティング、BtoB向けの顧客コミュニケーション(会報誌・広報誌)まで、お客様のフェーズに合わせたエンゲージメント構築をトータルでご支援しています。
ご興味のある方は、下記のサービスページ、資料をご覧ください。
◆SNSで顧客とのエンゲージメントを強めたい方
◆ファン育成やファンマーケティングに興味のある方
◆BtoBにおける既存顧客との関係性を強めたい方