インナーブランディングとは、社員一人ひとりに自社の企業理念や価値観を理解してもらい、日々の業務や行動にまで根付かせていくための取り組みです。「インターナルブランディング」と呼ばれることもあります。
ブランディングには、大きく分けて社内を対象とするインナーブランディングと、消費者や顧客などの社外を対象とするアウターブランディングの2種類あります。これまで主流だったのは、広告・販促活動などを通じて、社外の消費者に自社や商品の価値を伝え、ブランドイメージを形成していくアウターブランディングです。アウターブランディングは、「エクスターナルブランディング」とも呼ばれます。
インナーブランディングの目的は、企業理念を社内に深く浸透させるとともに、自社が競合他社と比べてどのような価値(強み)を持っているのかを従業員一人ひとりに自覚してもらい、その力で企業体質を内側から強くしていくことにあります。
社内のメンバーが共通の意識や価値観を持って行動できなければ、社外に向けたブランディングは十分な効果を発揮しません。その意味で、インナーブランディングはアウターブランディングを支える「土台」として位置づけられる重要な取り組みです。
近年、インナーブランディングが注目されている背景としては以下が挙げられます。
少子高齢化により、労働人口は減少しています。人材獲得競争が激化する中で、インナーブランディングを行うことで優秀な人材を確保し、離職率を低下させる狙いがあります。
終身雇用が当たり前だった時代に対し、現在は雇用の流動性が高まっています。人材の入れ替わりが頻繁に起こり、多様な価値観や経験を持つ人材が集まっている社内で、企業理念の浸透や価値観の共有で一体感を高めようとする機運が高まっています。
インナーブランディングには下記の3つのメリットがあります。
企業価値や企業理念、行動指針が浸透する
従業員のモチベーションが向上する
優秀な人材の確保、離職率の低下につながる
従業員が自社の理念や価値を共有、理解していれば、業務を「自分ごと」として考え、自発的、自律的に行動できるようになります。その結果、各自の仕事のパフォーマンスが向上し、企業全体の生産力が向上します。
また、従業員から自発的に自社や商品、サービスの魅力を外部に発信できるようになり、アウターブランディングの推進力にもなります。
自社の価値やイメージがより良いものになると、従業員が持つ自社への信頼や愛着が高まり、働くモチベーションが向上します。
自社への愛着は社内の連帯感を強めることにもつながります。目標に向かって、従業員が一丸となって業務を遂行できる環境が生まれます。
自社に誇りを持てると、「この会社でもっと働きたい」と思う従業員が増え、定着率が上がります。従業員が生き生きと働く職場は、求人応募者からも魅力的に見えることから、採用面での効果も見込めるでしょう。
さらに、ビジョンやミッションを理解したうえで入社してくる新人は、入社後のミスマッチが少ないため、早期離職も抑制できます。
社内の多くのコミュニケーションツールは、インナーブランディングに活用できます。主な手法を紹介します。
定期的に発行している紙やWeb版の社内報は、自社の指針や動向の発信に最適です。トップメッセージのほか、自社の経営状況や他部署の動き、従業員の素顔なども伝えられ、意識共有や連帯感の醸成に役立ちます。
クレドは、企業の一員として心得ておきたい行動指針や信条のことです。クレドを端的にまとめたカードを配布することで、従業員が常時携帯していつでも指針を確認できます。より詳しい内容を小冊子にする場合もあります。
経営陣と一般社員とが率直な意見を交わす場を設けることで、メッセージを直接伝えられる手法です。トップキャラバンでは、経営者が各現場を訪問し、従業員と話し合います。部署ごとにトップとの食事会を開くケースもあります。
社内コミュニケーションを活性化するには、部署の異なる従業員が自然に交流できる場を設けるのが効果的です。リラックスした雰囲気のなかで、コミュニケーションが自然に発生する仕組みを整えましょう。
その他にも、全体会議や各種会議、掲示版(リアル、Web)や社員手帳などでの情報提供、勉強会やワークショップ、社内サークル、交流会などのイベント、社内SNSの整備、サンクスカードなどでの対話といった手法があります。
インナーブランディングを成功させるためのポイントを4点紹介します。
企業のミッション・バリューを明確に示す
押し付けるのではなく共感を得る
中長期的視点で取り組む
成果検証とフィードバックを行う
インナーブランディングで何より大切なのは、企業のミッション・ビジョン・バリューを社内に明確に示すことです。
インナーブランディングは、これらを明確にし、ステートメント(宣言)として発表することから始まります。ステートメントは全員が理解し共感できる、シンプルで分かりやすい表現になるよう心掛けましょう。
インナーブランディングでは、一方的に価値観の共有を強いるのではなく、その背景にある考え方や狙いを丁寧に伝え、従業員に理解・共感してもらうことが大切です。自社ブランドについて従業員が理解を深め、気軽に話し合える雰囲気を社内に育てていくことが求められます。
ミッションやビジョンへの理解が深まり、価値観が共有されるには時間がかかります。すぐに結果を出そうとせず、段階的に目標や指標を設定して、中長期的に取り組む姿勢が必要です。
定期的な検証、評価も重要です。取り組みが適正に評価されれば、従業員の意識が高まり、努力を続けやすくなります。
定量的な検証(売上や業務効率、従業員の定着率の推移など)と定性的な検証(社内外のヒアリング、座談会など)の両方を行い、成果を上げた部門や個人を表彰するといった目に見える形でのフィードバックが効果的です。成果が思うように出ない場合は、手法を見直し、検証を重ねましょう。
最後にインナーブランディングの成功事例を紹介します。
メディア事業、ゲーム事業などを展開する株式会社サイバーエージェントのインナーブランディング施策のひとつが、「あした会議」です。
2006年から毎年開催されている「あした会議」では、役員と社員チームが合宿をし、共に同社の“明日”を考えます。この会議をきっかけに生まれた子会社は32社、営業利益は約455億円(2021年9月末)に上ります。
同社の大きな柱となっているゲーム事業も、2009年の「あした会議」から誕生。2021年には、AI技術を活用した無人店舗ソリューションを提供する株式会社CA無人店舗を設立して、話題になりました。
「あした会議」は多くの従業員にとって、自身の業務以外にも幅広く関心を向け、企業全体を俯瞰する経営者視点を持てるようになる、大きな成長の機会となっています。
世界的なカフェチェーン店のスターバックスは、年間80時間の研修を行うなど人材育成に力を入れています。サービスに関するマニュアルは設けられておらず、従業員がスターバックスの文化と提供価値を深く理解し、自主的に行動することが期待されているのが特徴的です。
従業員は単にコーヒーを提供するだけではなく、一人ひとりの顧客とのコミュニケーションを大切にしてサービスを提供することを心がけています。 それにより、家や職場以外の第三の居場所「サードプレイス」というコンセプトを体現し、顧客との関係性を強固にしているのです。
菓子メーカーのカルビー株式会社では、社内報がインナーブランディングの推進に貢献しています。同社では、紙とWebの2種類の社内報を発行しており、従業員が気軽に参加できるよう工夫しています。
例えば、社長や会長が自身で書くブログに「いいね」やコメント(匿名可)を付けられるようにしたことで、経営層と社員のコミュニケーションが活性化しました。
また、寄せられた記事はすべて載せるという姿勢で運営することで、社内の大きなイベントから、従業員の日常的な出来事までさまざまな情報が集まるようになり、社内の風通しが一段と良くなりました。
こうした取り組みが認められ、同社の社内報は「社内報アワード2020 紙社内報部1冊」でゴールド賞を、2021年度「経団連推薦社内報 WEB社内報部門」では総合賞を受賞しています。
インナーブランディングによって自社への理解が深まると、従業員のモチベーションが上がり、企業体質が強化されるうえ、社外に向けたアウターブランディングの土台になります。中長期的な視点を持ち、従業員の共感を大切にしながら、自社の理念や価値を丁寧に伝えていきましょう。
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