初めにSDGsとは何かを理解するための基本情報と、日本での注目度について解説します。
SDGsは「Sustainable Development Goals」の略語で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
持続可能なより良い世界を目指すために掲げられた国際目標で、2016年から2030年までの15年間で達成することを目指しています。
この「持続可能」という言葉は、人々が健やかに暮らせる社会と豊かな自然環境を、損なうことなく未来にわたって保ち続けることができるという意味で使われます。
SDGsは、国連の「持続可能な開発サミット」において、全国連加盟国(193カ国)によって採択されました。各国が独自の目標を打ち立てて自発的に行動するものであり、目標が未達でも特に制裁はありません。
SDGsは17のゴール(下図)、169のターゲットで構成されており、さらにその下に232個のインジケーター(指標)が設定されています。
SDGsのスローガンは「誰一人取り残さない(leave no one behind)」。
これは地球環境や人が暮らす社会・経済を維持する開発を行うことを意味しており、破壊行為を許さないという姿勢を表明するものです。
電通が2023年に行った第6回「SDGsに関する生活者調査」(※)によると、日本の生活者のSDGsの認知率は96.1%で、前年の調査に比べて5ポイント上昇。「内容まで含めて知っている」と回答した人は、第1回調査(2018年2月実施)の3.6%から11倍以上に増加し40.4%となっています。
また、SDGsについて9割弱がポジティブなイメージを持っており、SDGs商品・サービスの利用意向やSDGsに取り組む企業への好感度も向上していると考えられます。
※出典:第6回「SDGsに関する生活者調査」(電通Team SDGs)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2023/0512-010608.html
SDGsは、経済・環境・社会の3つの側面で目標を設定しており、そのいずれもが企業活動と深く関わっています。
また、SDGsの目標や指標は多岐にわたり幅が広いため、多くの企業活動が17の目標と169のターゲットのどこかにつながる可能性が高いのです。持続可能な社会を構築するためには、様々な生産活動を担う企業の取り組みが欠かせません。
さらに、本業の取り組みだけでなく、オフィスで使用する物品の素材変更といったノンコア分野の取り組みを含めれば、どんな業種でも自社なりのSDGsを進めることができます。
その例として、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標12「つくる責任 つかう責任」を掲げて、事故抑制のための自動車の安全装置の開発に取り組むメーカーや、目標14「海の豊かさを守ろう」のもとでプラスチック製品から紙ストロー・紙製ホルダーに切り替えたフードサービスの企業が挙げられます。
ノンコア分野では、目標15「陸の豊かさも守ろう」のもと、名刺の紙をFSC紙(※)に変更する取り組みが多くの企業で始まっています。
※FSC紙:持続可能な森林経営を目指す非営利団体FSC(Forest Stewardship Council)が認証する紙。
森林の保全と資源の活用につながるリサイクル紙や、環境リスクの低い原材料を使用したミックス紙が主な対象。
SDGsは企業の「新時代の生存戦略」と呼ばれています。
それは、SDGsへの取り組みによって、社会課題に向き合う姿勢を表明し、社会貢献への活動を具体的に示すことができるからです。そこにどんなメリットがあるのか、具体的に説明しましょう。
災害や環境問題、貧困といった様々な社会課題は、将来的に企業活動を揺るがす要因となる可能性があります。それらの諸問題への対策を講じることで、事業の継続可能性を高めることができます。
SDGsの取り組みは、顧客や取引先を含めた社会から高評価を得ることが可能な、ブランディングの強化策に位置付けられます。
企業がSDGsに誠実に取り組む姿勢は、消費者に好印象を与えます。特に若い世代はSDGsへの関心が高いため、将来的な商品・サービスの選択への影響は無視できません。この企業姿勢は取引先にもアピールできます。社会貢献意識の高い企業として認知されることは、信頼性の向上につながります。
SDGsへの取り組みは、新たな視点での事業開発や商品開発、ビジネスのアイデアを生み出す機会になり得ます。
またSDGsの取り組みを通じて、自治体やNPO、他社と協業する可能性が広がり、新たなビジネスチャンスを生むこともできます。
近年、企業への投資を、環境(Environment)や社会(Social)への貢献、ガバナンス(Governance)という3つの観点から判断する「ESG投資」が増加しています。経営にSDGsを取り入れることで投資家からの評価を得られ、資金調達にも有利に働くのです。
SDGsは、実際にその取り組みを担う社員の考え方や行動にも影響します。
学びや活動を通して課題を認識することで、社会の一員としての自覚が高まります。また企業責任を果す自社への誇りは、働く意欲の向上につながります。
社会貢献に対して意識の高い若い世代から評価されることで、採用活動に良い影響が期待できます。
積極的にSDGsに取り組む自分の会社に対して愛着が高まる効果もあり、社員の定着率の向上にも寄与します。
企業がSDGsの活動に取り組む際の一般的なフローを解説します。
担当者ひとりに押し付けることのないようにチームを編成します。
施策がスムーズに進むように、経営陣もメンバーに加えます。
まずは推進メンバーがSDGsについて学習。
そのうえで社内向けセミナーや啓発活動を企画し、SDGsの必要性や意義を全社に浸透させます。
SDGsの具体的な取り組みについて、「自社事業でできること」「オフィスでできること」といった分野別にテーマを定めます。
決めたテーマと、SDGsの目標・指標との関係性を明確にすることが大切です。
そして、現実性があること、実現可能であることに注意して、具体的な実行計画に落とし込みます。課題とその解決方法も検討します。
半期や年度といった期限を区切り、達成目標と評価の方法を決めます。
経営者は自社の経営戦略のひとつとして、社内外にSDGsの取り組み内容を発表します。
部門は実行計画をそれぞれの事業活動に組み込み、取り組みを進めます。
定期的に実行計画の達成状況を評価して、社内に報告をします。
社内の反応をもとに、課題の特定と改善を図り、取り組みを継続します。
SDGsの取り組みを進める際には、次のような点に注意が必要です。
・自社の能力に見合っていること
・持続可能な取り組みであること
・社内の理解が得られていること
・自社ならではの独自性があること
・SDGsウォッシュ(※)と見なされないようにすること
・取り組みを振り返ること
SDGsは、今できることを自社なりに行うことが大切です。事業に支障の出る無理なやり方や身の丈に合わない施策は、長続きせず、見かけだけの取り組みに終わりかねません。他社の真似でなく、自社の個性を生かし、無理なく取り組みましょう。
※SDGsウォッシュ:SDGsの本質を理解せず、実体がないのにSDGsに取り組んでいるように見せかける、うわべだけのSDGs活動のこと
最後に、企業の取り組み事例を4つ紹介します。
トヨタ自動車は事業活動のすべての領域を通じて、環境負荷を低減し、社会・地球の持続可能な発展に貢献することを目指しています。2015年には「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、気候変動、水不足、資源枯渇、生物多様性の損失といった地球環境問題に対してクルマの持つマイナス要因を限りなくゼロに近づけるとともに、社会にプラスの影響をもたらすための取り組みと目標を発表しました。
具体的には、2050年に、グローバルで新車の平均走行時CO2排出量を90%削減(2010年比)することを目指す「新車CO2ゼロチャレンジ」といった取り組みを展開しています。
間仕切り・パーティションを製造販売するコマニー株式会社では、経営の軸に目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」を据え、製品による社会の課題の解決と、顧客や取引先への貢献の両方を実現することを目指しています。
高齢者が使いやすい福祉施設向けのドアを開発したほか、オールジェンダー向けのトイレも研究。広島SDGsビジネスコンテスト2018では優秀賞を受賞しました。
滋賀県の地銀、滋賀銀行は2017年に「しがぎんSDGs宣言」を発表し、さまざまな取り組みを行ってきました。
現在は、SDGs事業への資金サポート・奨励金の提供やSDGsビジネス・マッチングフェア開催、LGBT対応住宅ローンなど、6つの施策を展開しています。
住設・家電の設備商社の株式会社杉半では、途上国の電化が遅れている地域で、電源不要の水圧式シャワー洗浄便座の普及に取り組んでいます。
不衛生な水の使用を減らし、感染症予防に役立つ安全なトイレを増やすことで、人々の暮らしの質の向上に貢献。宗教上の理由から生理用品の入手が難しい地域では、ビデ機能の啓発活動も行っています。
SDGsは未来に向けて社会を存続させ、より良くしていくための世界的な目標です。社会的に注目されているSDGsに積極的に取り組めば、企業のイメージが良くなるだけでなく、資金調達や人材の確保にも貢献するといった多くのメリットが期待できます。
しかし、無理をして継続できなかったり、中身の伴わない活動になったりしては意味がありません。自社でできることをしっかりと検討し、長く続けられる、成長性のある取り組みにしていきましょう。
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